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歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
全力の恋を始めよう!編
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未来予測とソーキそば

 体は、疲労で心臓を止めるーー。

 心は、きっかけで暴走するーー。


 心の声が、今までは僕の声をしただれか、だったんですけど今回は、僕自身の声でした。


 すごく暴力的な声で口調も違くて。内容は、言いたくありません。


 両方とも僕なんですよね、そうなんですよね。全部僕が望んでること、なんですよね……。


「番組の撮影下、という常に緊張を伴う場所で、あるきっかけが君の心を急激に動かした。感情だけが先に行って、体の反応がついていけず一種の錯乱状態になった。今、君の置かれた状況を、全て捨てることを強く勧める。そうしなければ、いずれ取り返しのつかない状況に陥る」


 取り返しのつかない状況ーーそれは、僕が杉浦陽子を殺そうとすることなんだろう。




◇◇◇




 日本ピアノ協会とロキシー・エージェントは番組に圧力を掛けて、僕とユアの会話の映像を握り潰した。


 いわゆるお蔵入り。


 今回の放送は和気あいあい、閑話休題な内容になり、ただみんながおしゃべりしてる微笑ましい時間になった。

 ピアノの練習が解禁になり、来週からは夏休みが始まる。


 学校は好きだ、だれかがいるから。しゃべって、勉強して、運動して、友達と、友達じゃないだれかと、笑ってられるから。

 小5からずっとそうだったじゃないか。ゴールデンウィークも、夏休みも春休みも冬休みも、なのになんで今さら、僕はこんなにも寂しがる!


 全てを捨ててまたひとりになって、そしたらまた今まで通りで。それで世界大会が終わったら、僕はなにをすればいいんだろう。僕は、どうすればいいんだろう……。


 僕は杉浦陽子を、本当に殺そうとするのだろうか?


「おかえりー」


 いつもの、普段の、フツーの、麻美の声が聞こえた。


「……来てたの?」

「うん。律子叔母ちゃんに頼んでソーキそばの材料買っといてもらって、今作ってるとこ。座って待ってて」


 おたまで汁すくって味見してる。


「麻美……」

「んん?」

「麻美って歌手ぢゃん?」

「え、いまさら?」

「もし、僕がピアノを弾くのを辞めたらさ……」


 麻美は僕を見てニヤリって笑った。


「ああ、一志はわたしの愛の深さを分かってないなあ。わたしの目標は一志のピアノで歌を歌うこと。言ってなかったっけ?」

「うん、聞いたことある」

「そう。でね、その目標はもう叶ったの。一緒に、いっぱい演奏したでしょ? 歌手とか歌姫とか、それはその途中でたまたまそうなっただけ。テレビにゲリラに渋谷、全部すっごく楽しくって、でももう少し一緒にやりたいかなあ」


 豚肉に包丁刺して、また笑った。あっけらかんと話す麻美に拍子抜けしてしまう。


「一志がピアノ辞めたらわたしも歌手辞めようかな。ねえ、そしたら次なにやる?」

「……え?」

「ん?」

「……次って?」

「人生は長いんだよ。2人で一緒に出来ることがいいよねえ。あ、でもとりあえずお金はいっぱいあるし旅行でもする?」


 ……次?


 次なんて考えたことなかった。ピアノ辞めたら全部終わりだと思ってた。ピアニストじゃない僕はいらないって、wfも終わるって、世界大会で惨敗したら終わるって、人気もなくなるって、だれも見てくれなくなるって。


 麻美との恋愛も、終わるって……。


「なに泣きそうな顔してるの?」

「麻美はさ、ピアノを弾いてる僕が好きなんじゃなかったの?」

「知ってると思うけど、音とか声には感情が乗るでしょ。一志の演奏に感情を乗せてるのは一志自身、わたしは一志が好きなんだよ」


 キッチンの床に崩れ落ちた。


「僕は今後、杉浦陽子を殺そうとするって、だから全部捨てろって……」

「よく分かんないけど、病院の先生は医学の話しをしてるんでしょ? わたしは2人の愛の話しをしてるの」


 しゃがんでる僕をぎゅうっと抱きしめてくれる麻美に夢中で抱きついた。体は少し震えてるけど、涙なんて拭う余裕ないけど、それでも麻美がいれば安心できた。


「麻美、次の収録、日本中に麻美が好きだって言って来る。覚悟してて」

「うん!」




◇◇◇




「ソーキそばってさ、どう見てもラーメンだよね?」

「そうだけど?」

「だってそばって……」

「中華そばだってラーメンぢゃん」

「あ、そうか。じゃあソーキってなに?」

「……多分、この豚肉のことかなあ。いつも乗っかってるし」

「へえ。沖縄ではよく食べるの?」

「うん、みんな食べるよ」

「旅行なら沖縄行きたいな。でも麻美にはただの帰省になっにゃうよね?」

「ヘイキヘイキ、どこでも案内したげるよ」

「どこでも? じゃあ名護市の麻美の実家」

「いや、あの、ちょっと……」

「だめ?」

「だめっていうか、さあ……」

「でも僕にヤンキーが似合う気がしない」

「だから、ヤンキーじゃないって、全然違うから! それに沖縄のこと勘違いしてるでしょ」

「へー、違うんだ。律子叔母さんに電話して聞いてみる」

「ちょっ、待って、なんで知ってるの」

「ヤバイ。楽しい!」

「でしょうね、もう!」

「ラーメン、伸びちゃうよ?」

「一志のせいでしよ!」

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