表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
全力の恋を始めよう!編
72/329

目指す先の未来

 麻美のアドバイスは的確だった。ハイタッチ、それは右手でも左手でもいいらしく、強く握られる心配もなくなった。

 会いたい人に会えたって、その気持ちはすごく分かる。でも両手でぎゅうって、そんなに力入れなくてもなんて思っても、不機嫌になったら不機嫌だって周囲に言われそうで我慢してた。


「葉山くんおはよー」

「おはよ」


 昨日から友だちって言い張ってるこの子の名前はなんだっけ? 僕の横で上目遣いのこの子は何年何組の子?


 カーストーー学校内の最上位は芸能人、そんなことが誇らしいらしい。




◇◇◇




 僕がいない間にグループのみんなが修学旅行の班別行動の行き先を決めてくれていた。大阪城、道頓堀、アメリカ村、清水寺、金閣寺、祇園、嵐山、桂川。

 大阪の巨大テーマパークは学校側からNG食らったらしい。まあ、確かにそれで1日終わっちゃうしね。


「なあ、観光スポットだし人多いよね」

「まあそうだろうな」

「僕の身バレ、大丈夫かな」

「あ、ヤバくね?」

「変装とかいろいろやってみるよ」


 竹内、梶さん、須藤さん、川上さん、授業を割いてのみんなで修学旅行の予定決め、こういう時間は楽しい。それと北原陸ーー。


「北原、お前アイドルオタクだったの?」

「あ、うん、そ、そう。あの……」

「ん?」

「人と、話すの苦手で緊張でドモって」

「いいよ、気にするなよ。友だちだろ?」

「う、うんうん!」


 僕も昔はこんなだったな、なんて今も昔も中身はそんな変わってないと思う。


「ねえねえ北原くん」梶さんが興味津々。「愛内さんのことはどれだけ知ってる?」


・本名、安城あさみ

・出身、沖縄県名護市

・血液型はB型

・身長158センチ、体重43キロ

・足のサイズは23.5センチ

・誕生日は9月10日の乙女座

・4人兄弟の3女、結婚してるお兄ちゃんとお姉ちゃん、それに妹がいる

・高校に通いつつ那覇ボイススクール卒業

・18歳でロキシー・エージェントから『パラドックスラブ』で歌手デビュー


「へえ、そうなんだ」

「葉山知らなかったのかよ」

「うん、いろいろ初めて知った」

「そこは知っとけよ!」


  隣りで須藤さんと川上さんも笑ってる。


「誕生日9月10日って、学年で言ったら5つ差?」

「そうじゃね?」


 へえ、そうなんだ。


「北原、お前スゲーな……」


 竹内の言葉に同調する。


「ネ、ネットの情報だからこれくらい。あ、でも僕の予想だと、彼氏、俳優とかバンドマンとか実業家とか、10人、とかなってるけど多分いない、っていうか処女って……あ、ごめん」

「北原、前半は合ってるけど後半は違うぞ」

「あ、そ、そうなんだ」


 北原がモジモジしてて、自分で言って顔真っ赤にして照れてる姿が面白い。


「ねえ葉山くん、どうして知ってるのかな?」


 梶さんが立ち上がるくらい身を乗り出してる。目が座っててなんか怖い。


「どうしてって、愛内さん今まで彼氏いたことないって言ってたし……」

「そっちじゃなくて後半!」

「わたしも思った」

「え、え、マ?」


 後半? ……あ。


「葉山テメー!」

「いやいやそういうんじゃ……」

「ちゃんと話しなさい!」

「ねえどういうことなのかな、葉山くん!」

「ほら、なんか空気とか雰囲気とか」

「神、白状しるーー!」




◇◇◇



「久しぶりだね」

「古川さん!」


 古川さんは家で僕の帰りを待っててくれたらしい。


「愛内さんに様子を見て来いって言われてね。鬼の居ぬ間に洗濯かな?」

「ははは……」


 心許せる大人との会話は安心出来て楽しい。


「将来はどうしたい?」

「高校を卒業したら音大に行って、プロのピアニストを目指したいって思ってます」


 勝手に僕も冗舌になるのは自然。


「葉山くんにひとつアドバイスしておこう」

「アドバイスですか?」

「そう。葉山くんは愛内さんと出会うまでは、ほとんど1人でピアノ弾いてるだけだって聞いてね。けれど今、すごく有名になってこれから先、たくさんの出会いがあると思う。急に環境が変わっていろいろ大変なことも起きるだろうけど、それは自分の成長の過程のひとつだってことを忘れないようにね」




◇◇◇【ある日の回想】◇◇◇




東京都港区

明和大付属病院内個室ーー




 何年経つだろう、僕は確かに高校3年の春にパリで行われた世界ピアノコンクールで優勝したーー。


 思い返してみればこの時、古川さんは丁寧に教えてくれていた。でも当時は高校2年生の17歳、気付けと言う方が無理だった。

 周囲との付き合い、距離感、本来ならそういうものは幼少期から少しずつ培われ、けれどその経験がなかった僕には到底無理な話しだった。


 僕は確かに優勝した。


 けれどもし優勝しなかったら、この世界に足を踏み入れなかったら、病気が悪化することもなかったのだろうか。人の寿命の半分すら届かない身体にならなかったんだろうか。

 当時ボロボロの僕の心に、そんな余裕は一切なかった。パリでプロポーズ、その目標すら果たせなかった。


 人と人との出会い、それは良い面もそうじゃない面も全部ってこと。笑って、たくさん笑って、怒って、怒鳴って、泣いて、泣きじゃくって、殴って、殴られて、苦しんで、死にたくなって、本当に死にそうになって。


 ましてや、僕が人を殺そうとしたなんて……。


 懐かしい、全てが懐かしい。これは僕が、まだピアノを弾けた頃の記憶ーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ