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歌姫の全力の愛が僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
6/316

完全勝利

「いやあ彼女、すごく本気でさ、来年春まで時間あるでしょ。少し付き合ってあげたら? そしたら彼女も納得するでしょ。」


 白髪オヤジはテキトーなこと言ってテキトーに電話切った。


「時間? ヘイキヘイキ、今日オフだから全然待つよ。とりあえず形になればいいかな今日は。あ、トイレ借りるね。ねえ彼女いないって好きな人とかもいないの?」


 歌姫様はそう言うだけ言って席を立った。なにも返事してないけど、あんまり考えなくてもいいんじゃないかと思う。


 オフ? 休みってこと? 

 なんかカッコいい。


 鍵盤を叩く。楽譜だっていうこのメモを、けどきっとこうしたいんだろうなって想像で繋ぐ。

 作曲なんてしたことない、売れるとか人気出るとか、そんなの知るはずもない。


「葉山くんの全てを受け止めるから」


 随分と簡単に言うなあと思いつつ、芸能人からの頼まれごとを断れない自分もなんだかなあって思う。


「ねえピザ頼んでいい?」

「どうぞ」


 なんだかんだでお昼前、あれからずっと構成考えながらとりあえずいろいろ試す。


「愛内さん、これだと歌とピアノぶつかりません?」

「ダメ? いいんじゃないの?」

「ピアノ勝っちゃいますよ?」


「葉山くんにわたしの伴奏は求めてない、お互いにやりたいことやって、曲の中でいっぱいぶつかって、たくさんケンカすればお互い分かり合えると思う」


 そう話す愛内さんは腕を腰に当てて自信満々で、なんとなく言いたいことは分からなくもない、けどそれって……。


 天才か? 感性の。


 ピンポン!


「あ、ピザ来た。お財布お財布」

「ああおれが払いに行きます!」


 さすがに愛内さんが玄関で対応する訳には行かない。年上だからって愛内さんがお金出してくれた。朝も食べてないんだから食べようなんて声に、生返事だけしてピアノに戻る。


「ヤバ、美味しい! パイナップル合う!」


 ピザにパイナップル? ピアノの連弾の合間から聞こえてくる声に驚きながらも、少しずつ掴んで来た曲調を形にする作業に没頭する。

 時間は午後の2時。昼過ぎにはある程度なんて言ったにも関わらず、まだまだ先が見えない状況に申し訳なさが先立った。


 とりあえずトイレ。


 トイレに入ってドアを閉める。おれの家にあるトイレ、それは間違いない。おれの家にあるトイレだからおれが使うのは当たり前、当たり前なんだけど、トイレ借りるね、愛内さんそう言ってたよね、何時間か前に。


《トイレ借りるね、ニコッ(ハート)》


 いや待て、トイレ借りたってことは使ったってことだろ、目の前の便器に座ったってことで、座ったってことは下着をさ、そこにおれが座るってことは便器を介して肌と肌が触れるってことで、それはまるでセ……いやいや早まるなおれの倫理。

 そもそもだ、トイレは生理現象なわけで、でもあれも生理現象だし、ああ変態だ、分かってるさ、鼻息荒くしてるのも目が充血してるのも、いやそれは寝不足で、でも生理現象を生理現象して……。


 水を流してトイレのドアを閉める。


 勝った、そうおれはおれの自我に勝ったんだ。激しい戦いだった、けど倫理と正義は勝ったんだ!

 落ち着けと深呼吸をひとつ。ふと見た先で、愛内さんはリビングで横になっていた。そっと近づくと寝息が聞こえた。


 歌姫が、寝てる。


 またか! あれか、隣りの部屋とかに実はFBIとかCIAとか潜んでて、コンクリートマイクで盗聴してて、向かいにマンションないけど、どっかからスナイパーがスコープで狙ってるんだろ。

 いや待て、冷静になれおれ、さっきは僅差で勝ったじゃないか! でもこれ、たまたまおれが立ってる位置、あと30センチくらいズレてたら下着見えるよね?


《下着、見たい? もし見たいなら、いいよ?》


 言ったか? そんなこと言ったか? おれだって健全な高校生だし童貞だし、じゃあ童貞じゃなかったらどうにか出来るのこれ? いやいやいやいやムリだろ、屋上から特殊部隊がロープ伝ってガラスぶち破るやつだぞ!

 早まるな、これは罠だ、ハニートラップだ、ヤツラには貯金額も知られている。そう、これはきっと国家と権力の暴走の……。


 タオルケットとかないから制服の上着かけといた。


「ごめーん寝ちゃった。ヘイキ?」

「全然大丈夫です!」

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