日曜日(残り7日)
「ね!」
「ねって」
クロワッサン食べてる僕に堂々と、朝からブラを見せてくる。
「C」
「まあ説明聞いて分かりましたけど、そういうのってメーカーによって差があったりするんじゃないですか?」
「ギクッ!」
「ギクッていうのは心の中で思うのであって、別に言葉に出すことじゃないですよね」
「ああねえ」
「もしかして、そのメーカー以外は全部Bとか?」
「はあ? 結局大きいのがいいってこと?」
「そういうことじゃなくて、ああもう、こっち来てください」
愛内さんの腰に手を回し引き寄せる。パーカーのフロントのジッパー下げて両手を突っ込む。
「ほら、このくらいが好きというか、え、あの、愛内さん?」
「あ……あ、はい」
「家ではブラ付けない派?」
「なんか、油断してた」
とりあえず揉んでみる。
「ちょ、えっと、手離し」
「やだ」
手のひらの中の小さな存在感が存在感を増している。
「ん」
「……ヤバイ、性欲に負けそう」
それどころじゃない、と自分に言い聞かせて手を離してジッパーを上げる。
「がまんできるものなの?」
「いろいろ必死です。でも僕の、2リットルの水のペットボトルくらいありますよ」
「ニリッ!」
「嘘ですよ。食べて昨日の続きやりますよ」
「別にいいけど」
「2リットル?」
「そうじゃなくて!」
「食べて昨日の続きやりますよ!」
昨日の今日でこの温度差と思いつつ、僕次第で、いろいろと僕次第でなんとかなると思ってるけど自信ない。
午前中は発声練習を中心に、愛内さんの声のくせ、音程、上擦り、伸び、呼吸、引き、等を音程によって聞き分ける。
「そういえば愛内さん、ユニット名……」
「愛内麻美wf葉山一志」
「そうそれ、wfってなんですか?」
「ウィズとフューチャリングの両方入れてみた」
「それ文法的に合ってます? 僕が言ったやつだし」
「あは、なんか思いつかなくて」
「なんか古川さんと文句言ってませんでした?」
「さあ、再開しよう!」
楽譜なんてあってないようなもの。その時々の状態で音階から音の強弱まで聴いて、見て、瞬時に全てを変える。
70点、今現在の評価。
「キーになる音目立たせるのでそれに合わせて下さい」
「はーい」
これで75点。
「Cメロからラスサビまで裏声にならないように声量で」
「頑張る」
これで80点、やれる小細工はもうない。
成功するか失敗するかなんて分からない。愛内さんの声が途中で限界が来たり、僕が発作が起きたら、3分すら待たずに終わる。
やれることは練習だけ、本番まで徹底して練習して、空気がキリキリし初めて、そこからさらに突破、突破ってなに?
「ああ楽しい! ホント久しぶりにこんな真剣に練習してるって感じ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。営業の仕事ばっかだもん」
「大変なんですね」
「それよりも!」
「はい?」
「明日の公表、葉山くんの名前がとうとう全国へ」
「ああ」
「なんか反応薄くない?」
「まあ実感ないですからねえ」
本当は会見的な物があったけど、それどころじゃないって断ったらしい。
よくテレビとかで見るようなのなんだろうか。別にそこまでしなくても……。
「見たかったな、カメラに緊張してる葉山くん」
「笑えそうですね」
「あは、残念」
「ハハ。じゃあ時間ももったいないですし再開……」
--重い方、ないとでも思ってんの?
コホッ。
「愛内、さん……」
「発作? 注射」
「ちが、救急……」
カポッ。
え、これ、死ぬ。
ゴボボゴボボボゴボボボボボボボボボボ
口と鼻から血が噴き出す。手で押さえてどうにかなる量じゃない、吐血は服を赤く染めてあっという間にフローリングに広がる。
同時に、心臓の音が加速を始め、肺は痛みを大群で連れて来た。
2人で困難を乗り越えこのまま、なあなあと進むつもりだったんだろ?
2人で力を合わせて、ハッピーエンドとか思ってたんだろ?
下手くそな音、電波に乗せんなよ
聴く方の気持ちも考えてくれよ
いい加減にしてくれよ
はっきり言って迷惑なんだよ
きえ
本当は死にたくないから1年後とか言って
本当は死にたくないから先延ばしして
死にたいんだろ?
消え去りたいんだろ?
どうでもいいんだろ?
死ぬことカッコイイとか思ってんだろ?
ちが
両親殺した奴は憎いか?
そいつも死んでざまあみろって?
好きな人の隣りでよかったな
好きな人の声聞けてよかったな
やめ
最後になにか言わせてやるよ
「迎え、来」
視界が消え音が消え、脳が意識を消した。




