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歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
43/328

火曜日(残り12日)

「葉山、顔色……」

「すまん、ちょっとお昼で早退する」


 スクールメイクの余裕なくて、ちゃんとやってくればバレなかったって後悔。


 すうっと近づく須藤さん。


「具合悪いの? なんでもするよ?」

「ハハ、そんなんじゃないけどちょっとね」

「わたしの体あったかいって言われたよ、さゆりに」

「は?」

「真由、そこ誤解されそうなこと言わない!」


 こういう会話は気分を紛らしてくる。


「神ぃ、鬼塚ウザイ!」

「ん? なに?」

「絡んで来てなんかいろいろ……」


 鬼塚めんどくさ!


「ゴツいのに」と呟く竹内。「愛内麻美さんのファンらしいし来週……」


 へえ……。


「分かった行ってくる」そう言って席を立つ「何組?」

「3年5組、でも」

「葉山、マジで?」


 梶さんも須藤さんも心配した顔を向けてくる。滝田……いないしいいや。それを笑顔で返す。


「大丈夫、平和的に解決してくるから」


 3年生の教室がある階なんて行ったことない。珍しいのかファンクラブに入ってるのか、僕を見つけるとチラチラ見てくる上級生。


 3年5組、入口付近にいた先輩に鬼塚先輩に用事がと告げる。「あれ……」指差す方にまあ確かにゴツい、戦ったら負ける自信がある。


「すいません鬼塚先輩、友だちの川上さんに何か言いました?」

「ああ?」

「言いたいことがあって」


 クラス中が注目している「先生呼ぶ?」なんて声も聞こえる。まあ先輩の目がコワイ、けどこっちには絶対に勝てる作戦がある!

 1歩近づいて二の腕を掴む、同時に引き寄せ鬼塚先輩の体を傾けさせ耳に小声で一言。


「愛内麻美は、Cカップ」


 振り向く鬼塚先輩の目が丸くなる。分かる、分かるぞ!


 愛内麻美が好きだファンだと公言すると向けられる視線、え、Bだよね、貧乳好きなの? とか、そういう趣味? とか、それに対し、いや大きさとかじゃなくて形がとか、別にそういうところは気にしないとか、そう言い訳する自分がいる。


 だがCなら、別にフツーだね、フツー、そう言えるのだ。確かにGという圧倒的な存在感の前にはどうしようもないけどフツー、明日からはフツーと言えるのだ!


 おっぱいは世界を救うーー。


 向けられる視線に対して笑顔。ええ僕も同類ですよ、あなたと同じですよ、そういう含みを笑顔に持たせる。そして差し出す右手。


「仲良くしてくれませんか?」


 僕はそれ以上のことを知っている、あなたにいろいろと教えてあげれる、愛内麻美のファンなんですよね、言わずとも語られる男同士の共鳴。


「友達と呼ばせてほしい」固く握られる握手「済まなかった」


「気にしてません」

「あとで謝りに行く」

「はい、伝えておきます。突然すいませんでした」


 葉山一志には年上の彼女がいて、どうやらあの鬼塚でさえ一言で黙らせる程のバックが付いている。ウワサは尾ヒレつけバタフライを始めた。


「竹内、なんか調子よくなったから最後までいるわ。川上さん、鬼塚先輩が後で謝りに来るってさ」

「い、いや、来ないでいい」




◇◇◇




「愛内さんのおかげで先輩の友達ができました」

「そう、よかったね」

「はい」

「……なんの話し?」

「……」

「ねえなんの話しかな?」




◇◇◇




思い出す記憶


 葉山くん前も言ったけど薬、飲んでないでしょ。このままじゃ大変なことになるって言ったよね? 約束できないなら入院することになるからね


 飲みます


 それ前も言ってたけど分かるんだよ、検査結果が出てるんだから


 飲みます


 医者としては患者のことを一番に考えなければいけない。強制的に入院させる方法もある、分かったね


 飲みます


 人の半分どころか神経系統の異常は、明日明後日だっておかしくない、ちゃんと自分のことを大切にしてほしい


 飲みます


 強制的に……。


 いつも発作の後は脱力感に襲われ、練習しようとピアノに座るもボーっとしてしまい、でもそれは昔からだしとりあえず指動かしして日々。


 あと4回分、内ポケットに入ってるソレの数。病院には行ってない、大量に処方される薬も全部捨てた、いつかは病院に行かないと、なんていういつかっていつなんだろう……。


 あと、4回分。


 行けば貰えるだろうし、発作なんて前回は愛内さんと会う何日か前だし、テレビ出演が終わったら。

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