火曜日(残り12日)
「葉山、顔色……」
「すまん、ちょっとお昼で早退する」
スクールメイクの余裕なくて、ちゃんとやってくればバレなかったって後悔。
すうっと近づく須藤さん。
「具合悪いの? なんでもするよ?」
「ハハ、そんなんじゃないけどちょっとね」
「わたしの体あったかいって言われたよ、さゆりに」
「は?」
「真由、そこ誤解されそうなこと言わない!」
こういう会話は気分を紛らしてくる。
「神ぃ、鬼塚ウザイ!」
「ん? なに?」
「絡んで来てなんかいろいろ……」
鬼塚めんどくさ!
「ゴツいのに」と呟く竹内。「愛内麻美さんのファンらしいし来週……」
へえ……。
「分かった行ってくる」そう言って席を立つ「何組?」
「3年5組、でも」
「葉山、マジで?」
梶さんも須藤さんも心配した顔を向けてくる。滝田……いないしいいや。それを笑顔で返す。
「大丈夫、平和的に解決してくるから」
3年生の教室がある階なんて行ったことない。珍しいのかファンクラブに入ってるのか、僕を見つけるとチラチラ見てくる上級生。
3年5組、入口付近にいた先輩に鬼塚先輩に用事がと告げる。「あれ……」指差す方にまあ確かにゴツい、戦ったら負ける自信がある。
「すいません鬼塚先輩、友だちの川上さんに何か言いました?」
「ああ?」
「言いたいことがあって」
クラス中が注目している「先生呼ぶ?」なんて声も聞こえる。まあ先輩の目がコワイ、けどこっちには絶対に勝てる作戦がある!
1歩近づいて二の腕を掴む、同時に引き寄せ鬼塚先輩の体を傾けさせ耳に小声で一言。
「愛内麻美は、Cカップ」
振り向く鬼塚先輩の目が丸くなる。分かる、分かるぞ!
愛内麻美が好きだファンだと公言すると向けられる視線、え、Bだよね、貧乳好きなの? とか、そういう趣味? とか、それに対し、いや大きさとかじゃなくて形がとか、別にそういうところは気にしないとか、そう言い訳する自分がいる。
だがCなら、別にフツーだね、フツー、そう言えるのだ。確かにGという圧倒的な存在感の前にはどうしようもないけどフツー、明日からはフツーと言えるのだ!
おっぱいは世界を救うーー。
向けられる視線に対して笑顔。ええ僕も同類ですよ、あなたと同じですよ、そういう含みを笑顔に持たせる。そして差し出す右手。
「仲良くしてくれませんか?」
僕はそれ以上のことを知っている、あなたにいろいろと教えてあげれる、愛内麻美のファンなんですよね、言わずとも語られる男同士の共鳴。
「友達と呼ばせてほしい」固く握られる握手「済まなかった」
「気にしてません」
「あとで謝りに行く」
「はい、伝えておきます。突然すいませんでした」
葉山一志には年上の彼女がいて、どうやらあの鬼塚でさえ一言で黙らせる程のバックが付いている。ウワサは尾ヒレつけバタフライを始めた。
「竹内、なんか調子よくなったから最後までいるわ。川上さん、鬼塚先輩が後で謝りに来るってさ」
「い、いや、来ないでいい」
◇◇◇
「愛内さんのおかげで先輩の友達ができました」
「そう、よかったね」
「はい」
「……なんの話し?」
「……」
「ねえなんの話しかな?」
◇◇◇
思い出す記憶
葉山くん前も言ったけど薬、飲んでないでしょ。このままじゃ大変なことになるって言ったよね? 約束できないなら入院することになるからね
飲みます
それ前も言ってたけど分かるんだよ、検査結果が出てるんだから
飲みます
医者としては患者のことを一番に考えなければいけない。強制的に入院させる方法もある、分かったね
飲みます
人の半分どころか神経系統の異常は、明日明後日だっておかしくない、ちゃんと自分のことを大切にしてほしい
飲みます
強制的に……。
いつも発作の後は脱力感に襲われ、練習しようとピアノに座るもボーっとしてしまい、でもそれは昔からだしとりあえず指動かしして日々。
あと4回分、内ポケットに入ってるソレの数。病院には行ってない、大量に処方される薬も全部捨てた、いつかは病院に行かないと、なんていういつかっていつなんだろう……。
あと、4回分。
行けば貰えるだろうし、発作なんて前回は愛内さんと会う何日か前だし、テレビ出演が終わったら。




