非日常の破壊力
ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
叩き起こされた。
オートロックの呼び出し音が聞こえる、ずっと聞こえる、眠いから無視してたけど鳴り止まない。
ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
いま何時? 朝6時? 昨日あんなことがあってなんかいろいろ考えてたら朝日が上がり始めて、寝たのさっきだし頭痛い。
ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
重い身体動かして指でボタン押す。
「……はい?」
「愛内だけど」
ロックを解除したらやっと鳴り止んだ。まあ3時間睡眠がヘイキっていうんじゃなくて無理やり起こして、でもキツイ時もあるわけで今日はちょっとゆっくりなんて思ってたらコレ。
少しサボろうと思うとやっぱり神様が見てるのかって、昨日脱いだ服につまずいてそのままベッドに突っ伏した。
……ん? だれ?
ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
また始まった、今度は玄関だ。
ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!
宅急便? 朝6時に? だいたいおれに物送ってくる優しい人なんていない。足に鉄アレイ縛ってあるんじゃないかって重い。これはあれだ、寝不足、って当たり前で頭も回らない。
玄関の鍵をガチャリと回すと鳴り止む呼び鈴、開けるドアから広がる景色。
「おはよー」
愛内麻美。
彼女が肩出してミニスカで、ショートブーツで。
……は?
無理やり回そうと思った思考が止まった。朝6時の、自宅の玄関前に、は?
「寒いんだけど、とりあえず中入らせてくれない?」
「あ、はい……」
「おじゃましまーす!」
ブーツを脱いだ御御足が廊下を歩いてリビングに向かっている。
「ドア開けたままでどうしたの? 自分んちなんだし早くおいでよ」
「あの……」
「ちょっと待ってね」
彼女、歌姫たる愛内麻美はンーなんて言いながら伸びをした。剥き出しの脇に、白いて細い二の腕に、少し上を向いた控えめの胸に、細めた目に、視線が止まって離れない。
「いやーでもよかったよかった。昨日の支部長さんが教えてくてた住所合ってた合ってた。ほらさ、朝6時でしょ、さすがに5時じゃ早いかなあなんて思って待っててさ、葉山くんなかなか出てくれないんだもん、焦ったあ」
昨日、一言も話さなかった歌姫がしゃべってる。
「でも春っていってもまだ寒いねえ。ここ15階だっけ、なんか外いい景色じゃない? 東京からそこまで遠くないのにこんな静かになるんだあ。ねえ納豆ってやっぱり毎日食べるの?」
いっぱいしゃべってる。
「部屋の中物少な! 笑って感じ。あ、そっかそっか1人暮らしだっけ? まあ高校生だったらそうかもねえ。うわーピアノすごーい。家にピアノあるってのなんか懐かしいかあ。わたしの沖縄の実家にもあってさあ……」
しゃべりすぎじゃね?
「ちょっと葉山くん聞いてる?」
「あ、すいません。1人、ですか?」
「そう! ちゃんと1人で道間違わないで運転して来れたわたしエライって思わない?」
「昨日のマネージャーさん、は?」
「あの後ケンカしてムカついたからクビにした」
怖!
「だいたいさあ、わたしがしゃべると面倒くさくなるから黙っててとかいうんだよあの人、ヒドくない?」
そう言って顔を膨らませるのもいちいち可愛い。けど多分合ってると思う。
「わたしの歌より葉山くんのピアノの方が上だっつーの! ああなんか思い出したらまたムカついてきた、あのハゲー!」
ハゲてた記憶は全然ない。
「……で、今日は何を?」
振り向く彼女は、今までで一番の笑顔で声を発した。
「決まってるでしょ、2人で曲作るの。それでユニット組んで、1ヵ月後の生放送で全国デビューするの!」




