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歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
34/328

ドライブデート

「おはよー、起きて起きて」


 土曜日の朝、僕の目を覚まさせる顔が目の前にあって、ぼーっとしながらも目の焦点がずっとそれを追ってしまう。


「おはようございます」

「さあ起きて、早く用意して行こう」

「行くってどこに?」

「もちろん、デートに決まってるぢゃん!」


 1ヵ月の練習で1番楽しかった時はって聞かれたら、愛内さんとデートした2日間、そう答えるだろう2日間が始まる--。




◇◇◇




 外国産のスポーツカー、なんてイメージだったけどトヨタ? レクサス? 白い車は愛内さんに似合ってて、運転はちゃんと安全運転でスピードも抑えてくれてる。

 僕に気を使ってくれてるんだろうか、なんて思ったけど愛内さんいわく普段通りだそう。


「どこに行くんですか?」

「まあわたしに任せてね。まずは事務所」

「ああ……なんかデラ、虻川社長に会うの気まずいんですよね、まだ」

「大丈夫だよ、優しく抱きしめてくれるいい人だから」

「抱きしめる?」


 包容力があるって意味なんだろう……。


 常磐道のサービスエリアでカタカナ多めのカプチーノと水を買う。騒ぎになるのは困るので愛内さんは車でお留守番。


「ありがとう」

「いえいえ」


 この人はいちいちお礼を言うし挨拶する。当たり前なんだろうけどそれが心地よくて、いえいえなんて返事する僕の顔はいつもちょっと綻ぶ。


「そういえばグループトーク盛り上げたいって、なにかアイデあります?」

「崇める方に2人のオフショットでも載せればいいんじゃない?」

「写真ってことですか?」

「そう。来週の月曜日には葉山くんのこと公表する予定だから、それ以降は遠くから愛でる方もオッケー!」


 なるほどと思いつつ運転中の愛内さんを写真に撮った。イヤな顔せずピースして応えてくれた。

 画面越しに見た目がなんか可愛い。オシャレな洋服とサングラスがいつもよりカッコよく見せてくれて、普段の家とのギャップに見惚れた。


 そういや写真、はじめて撮った……。


「目……可愛い」

「え、気付いてくれた? 実は昨日マツエク行って、でね、デートだし気合い入れちゃった! で、店員さんがデートですかってあは!」


 喜んでくれてるみたいでよかった。


「葉山くんも今日カッコイイぢゃん!」

「ええ、洋服選んでくれるステキな人がいますので」

「ふーん、だれかな?」

「さあ」


 桜土浦という案内を過ぎた。車でどこか出かけるなんて遠足のバス以外では小4の事故以来、怖いなとは思わなくはないけど焦る程でもなかった。


 愛内さんの写真をグループトークにアップする。


川上真弓:いきなりの投下泣!

竹内淳 :葉山やっぱデートなんだろ!

梶さゆり:愛ちゃんヤバ! もっとほしい! もっと!

須藤真由:デートだ……うらやましい

竹内淳 :席変われ

梶さゆり:は? ゲスが!

竹内淳 :すいませんでした


「愛内さん、写真いっぱい撮っていいですか?」

「いいよ。プライベート特定されないようにね。反応よかった?」

「まあそれもそうですけど……」

「それもそうですけど?」

「いえ、なんでも……」

「へー、ふーん、へー」


 車は料金所を通って、はじめてのETCにドキドキしながら首都高へ。


「そういえば時計、経費じゃないんですよね?」

「うん、言ってもあんまり経費出てないよ」

「そうなんですか?」

「なんか嬉しくなっちゃって、あは」

「でも値段びっくりしましたけど嬉しかったですよ。A・Aが愛内麻美とか」

「安城……」

「安城?」

「安城あさみ、本名。あさみは平仮名ね。演歌歌手みたいでしょ」

「まあ」

「あ、葉山くんも芸名つける? ヒップホップ葉山とか?」

「いいです」

「グレートスーパーミラクル葉山」

「本名でお願いします!」


 へえ、本名なんだ……。


 芸能人はモテモテで毎日のようにカッコイイ人とデートして美味しい物食べて、なんていうのはこっち側の勝手な妄想で、愛内さんは女の子みたいにデートを、ってしたことないけど楽しんでる。


 案内には六本木の文字--。


「もうすぐ着くよ」


 --もうすぐ家に着くぞ。父さんの言葉。


「気をつけて運転して下さいね」

「任せて!」

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