しりしり
ケータイ見てもいい? そう聞かれて渡した。
「王子様をみんなで遠くから愛でる会だって、笑」
「楽しんでます?」
人参しりしりしりしりがやたらと美味しい。
「すごーい、盛り上がってるぢゃん。なんかいいなあ、高校生に戻ってやり直したい」
「ボイトレ頑張ってたんでしたっけ?」
人参しり、しりしりしり、ただの人参の千切りのはずなんだけど……。
「そう。その分葉山くんには高校生活を楽しんでほしいんだ。あはは、神だって」
「愛内さんしり何回でしたっけ?」
「2回」
「人参しりしり」
きゅうりしりしりとか白菜しりしりとかあるのかな? しりしり、なんか口に出していいたくなる。
「信用できる人って何人いる?」
「ううん、4人」
「ちょっとグループ作るね」
「よく分かんないのでご自由に」
「じゃあその4人の名前教えて」
いつもの4人の名前を伝えると、愛内さんは何か操作し始めた。招待とか聞こえるし5人のグループを作ってるみたいだ。
「よし、来た来た。早、ソッコー出来た。ほら!」
《王子様を全力で崇める会》
崇めるって、もうこの際いろいろとツッコむのは疲れたしなんでもいい。
「これでわたしのスマホと、ふふ、エィッ! あは、反応ヤバ!」
なんかぶつぶつ言ってるけど、隣りのなんとかって料理のオイスターソースのオイスターが柿だって聞いて味見してる。こんな味なんだ、柿って果物? 野菜?
「前々から思ってたんだけど、葉山くんピアノ以外ポンコツだよね」
「は? なんでですか?」
「考えてることことだいたい分かるから」
「そういう愛内さんだって……」
「わたしがなんなのかな?」
なんて言いながら左手で肩はだけてブラの線ニヤニヤ見せて来た。黒だった。
「いえ、なんでも。で、どうなんですか?」
愛内さんの話す内容にいいんですか? と確認する。
「任せて! フフフ」
「分かりました! フフフ。作戦しりしりってやつですね」
「葉山くん言ってることが分からない」
「さっき分かるって……」
「限度があるでしょ!」
食べ終えた食器を戻し、僕が洗って愛内さんが食器を拭く。練習前にリビングに戻って少しくつろぐ。
「さて葉山くん、作戦会議を始めるわよ!」
「え、さっき終わりましたよね」
「今までのは雑談、ここからが本番、デートよデート!」
「ああそっちですか? それなら変装でもして千波湖辺りをぷらぷらと……」
「千波湖ってそこの? 本気でデートする気あるのかな?」
その後もなんか熱く語ってたけどエスコートっていうか女性をリード、前にクラスの女の子が言ってたのを練習してみたいだけなので……。
「わたし的には別に泊まりでもいいんだけど、あは」
「毎日うちに泊まってるじゃないですか」
「それとこれとは別でしょ!」
「まあ別になんでも……」
「言っとくけど、しょうがないから付き合ってあげるんだからね!」
「あ、それツンデレってやつですね、マンガの……」
「葉山くん、正座しよっか」
練習は順調そのもの。あと2週間ちょい、このまま行けば特に問題もなさそう。
作戦、どっちの作戦? いやデートは作戦じゃないし、明日の放課後、実行に移す--。




