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歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
30/328

KHAA

 月曜日の夜は練習にならなかった。原因は僕で、泣き崩れて演奏どころじゃなくなったから。


「葉山って毎日練習してんの?」

「してるよ、毎日」


 愛内さんは寄り添って、僕の背中をずっとさすってくれていた。すごく優しい人なんだと思う。人ってそうなんだろうか? 両親も僕をそうしてくれてたんだろうか?


「ねえ梶さん、みんなで遠くから愛でるってどういう」

「みんなで平等にってこと」


 黒髪ロングの梶さんは今日は水色のリボン。我が強そうで、愛内さんのわがままとは違う情熱的というか、目を離したら突っ走っていきそうな感じ。


「わたしね、トークグループにも書いたんだけど、あ、まだ見てないでしょ」

「ホントごめん、結構忙しくて」


 セミロングの須藤さんは愛内さんの優しさとは違った優しい人で、丁寧な感じで気遣いとか、周りを見てる感じ。


「でもさやっぱり……」


 ショートボブの川上さんは活発でちっちゃくて可愛らしい。愛内さんの可愛いさとはちょっと違う、ネコ可愛いとは違う、なんだろ。彼女の印象はまだ……。


「神、エサほしい!」


 いた、確かにいた、騒いだ中に神神言ってる人!


「神って僕のこと?」

「うん! RICKs好きすぎて選んでくれて感動した」

「そうなんだ。エサって?」


「そうだよねえ」って須藤さん「トークグループが盛り上がる何かほしいよね、80人越えたし」


 ん? 80?


「というわけで神、エサほしい」

「分かった、ちょっと相談してみる」

「うん、だれに?」


 あ。


「親……」

「葉山くん親いないってナンパ野郎が言ってた」


 竹内を睨むとごめん、って手を合わせてる。ああなるほど、僕の情報がトークグループ入る条件だな。


「もう少し待っててくれないかな、みんなにはすぐに話すから」


 不思議そうな顔してたけど、それ以上は追求されなかった。本音はいろいろ聞きたいんだろうけど、僕に気を遣ってくれてる感じだ。

 トイレ、なんて言って何人かが席を立つ。梶さんだけになったのでなんとなく聞いてみる。


「ねえ、写真だけだよね、どうしてファンクラブとかそんな人が集まるの?」

「女の子はけっこう細かいとこ見てるの」

「細かいとこ?」

「そう。たとえばお金が急に入ってブランド品買ったら、なんか田舎の成金みたいでしょ!」

「確かに」

「葉山くんの場合はまず髪とか服のセンスが良くて、それでそういえば仕草とか最近違うねって」

「なるほど」

「さらに方向性が女の子の理想で、急になんでってなったら、なにかあるよねって」


 なにかってそれは、まあ。


 お昼休みに川上さんが時計見せてって。外して渡した。


「やっぱすご!」

「ありがとう」

「ネット、見たら27万」


 4人とその周囲が湧き立つ。「スゴイ」「マジ?」あっという間に教室中に。


「ははは」


 テキトーに笑ってごまかす。


「……神」

「んん?」

「葉山一志、K・Hだよね?」

「うん、そうだね」

「A・Aってだれ?」

「……ん?」

「裏、刻印されてる」


 K・H/A・A


 ……え?


「葉山くんの彼女? え、彼女いるの?」

「やっぱり彼女いたんだあ」

「神の彼女、探す」

「は、おれにいろいろ言ってきて彼女いんぢゃん!」


 彼女ではない。


「いないいない。メーカーの記号とかじゃないかな」


葉山一志:時計の裏にイニシャル彫りました?

愛内麻美:あは

葉山一志:あはじゃなくて

愛内麻美:てへ


「ねえ葉山くん、だれとトークしてるのかな?」

「ははは……」


 頬痛い。


 それからすぐに学校中のA・Aを洗い出され、7人見つかって違うと分かり年上説が浮上した。




◇◇◇




「愛内さんマジで勘弁してください」

「あはは」

「もう無理、バレそう」

「まあちょっと髪とか早いかなあとは思ったんだけどね」

「やるなら先に」

「なんかさ、相手がいつも身につけてる物に自分だけが知ってる秘密、みたいな憧れっていうか」

「相手がいつも身につけてる物に自分だけが知ってる……盗聴器ですか? まさかCCDカメラ」


 まあさすがにねえ。


「いいの?」


 やる、この人やる人だ!


「葉山くん、ちょっと作戦会議しよっか!」

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