KHAA
月曜日の夜は練習にならなかった。原因は僕で、泣き崩れて演奏どころじゃなくなったから。
「葉山って毎日練習してんの?」
「してるよ、毎日」
愛内さんは寄り添って、僕の背中をずっとさすってくれていた。すごく優しい人なんだと思う。人ってそうなんだろうか? 両親も僕をそうしてくれてたんだろうか?
「ねえ梶さん、みんなで遠くから愛でるってどういう」
「みんなで平等にってこと」
黒髪ロングの梶さんは今日は水色のリボン。我が強そうで、愛内さんのわがままとは違う情熱的というか、目を離したら突っ走っていきそうな感じ。
「わたしね、トークグループにも書いたんだけど、あ、まだ見てないでしょ」
「ホントごめん、結構忙しくて」
セミロングの須藤さんは愛内さんの優しさとは違った優しい人で、丁寧な感じで気遣いとか、周りを見てる感じ。
「でもさやっぱり……」
ショートボブの川上さんは活発でちっちゃくて可愛らしい。愛内さんの可愛いさとはちょっと違う、ネコ可愛いとは違う、なんだろ。彼女の印象はまだ……。
「神、エサほしい!」
いた、確かにいた、騒いだ中に神神言ってる人!
「神って僕のこと?」
「うん! RICKs好きすぎて選んでくれて感動した」
「そうなんだ。エサって?」
「そうだよねえ」って須藤さん「トークグループが盛り上がる何かほしいよね、80人越えたし」
ん? 80?
「というわけで神、エサほしい」
「分かった、ちょっと相談してみる」
「うん、だれに?」
あ。
「親……」
「葉山くん親いないってナンパ野郎が言ってた」
竹内を睨むとごめん、って手を合わせてる。ああなるほど、僕の情報がトークグループ入る条件だな。
「もう少し待っててくれないかな、みんなにはすぐに話すから」
不思議そうな顔してたけど、それ以上は追求されなかった。本音はいろいろ聞きたいんだろうけど、僕に気を遣ってくれてる感じだ。
トイレ、なんて言って何人かが席を立つ。梶さんだけになったのでなんとなく聞いてみる。
「ねえ、写真だけだよね、どうしてファンクラブとかそんな人が集まるの?」
「女の子はけっこう細かいとこ見てるの」
「細かいとこ?」
「そう。たとえばお金が急に入ってブランド品買ったら、なんか田舎の成金みたいでしょ!」
「確かに」
「葉山くんの場合はまず髪とか服のセンスが良くて、それでそういえば仕草とか最近違うねって」
「なるほど」
「さらに方向性が女の子の理想で、急になんでってなったら、なにかあるよねって」
なにかってそれは、まあ。
お昼休みに川上さんが時計見せてって。外して渡した。
「やっぱすご!」
「ありがとう」
「ネット、見たら27万」
4人とその周囲が湧き立つ。「スゴイ」「マジ?」あっという間に教室中に。
「ははは」
テキトーに笑ってごまかす。
「……神」
「んん?」
「葉山一志、K・Hだよね?」
「うん、そうだね」
「A・Aってだれ?」
「……ん?」
「裏、刻印されてる」
K・H/A・A
……え?
「葉山くんの彼女? え、彼女いるの?」
「やっぱり彼女いたんだあ」
「神の彼女、探す」
「は、おれにいろいろ言ってきて彼女いんぢゃん!」
彼女ではない。
「いないいない。メーカーの記号とかじゃないかな」
葉山一志:時計の裏にイニシャル彫りました?
愛内麻美:あは
葉山一志:あはじゃなくて
愛内麻美:てへ
「ねえ葉山くん、だれとトークしてるのかな?」
「ははは……」
頬痛い。
それからすぐに学校中のA・Aを洗い出され、7人見つかって違うと分かり年上説が浮上した。
◇◇◇
「愛内さんマジで勘弁してください」
「あはは」
「もう無理、バレそう」
「まあちょっと髪とか早いかなあとは思ったんだけどね」
「やるなら先に」
「なんかさ、相手がいつも身につけてる物に自分だけが知ってる秘密、みたいな憧れっていうか」
「相手がいつも身につけてる物に自分だけが知ってる……盗聴器ですか? まさかCCDカメラ」
まあさすがにねえ。
「いいの?」
やる、この人やる人だ!
「葉山くん、ちょっと作戦会議しよっか!」




