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歌姫の全力の愛が僕を襲う!  作者: 瑛人
芸能界デビュー編
3/306

愛内麻美

 金曜日の放課後、久しぶりに協会の支部長に会うことになった。


日本ピアノ協会茨城支部

支部長 白河貴正


 両親のいないおれに勝手に親代わりになって、小5の頃からいろいろと世話を焼いてくれる。おれから頼まれたって言ってるけど、そこまで頼んだ記憶はない。


「葉山に会いたいって人がいる」

「だれですか?」

「内緒だ」


 めんどくさ! スマホ越しで白髪オヤジの声のトーンが上擦ってる、なんかめんどくさ!

 学校帰り、歩いて帰れる距離、最近出来たデパートの向かいにその事務所はある。


「こんにちは」


 事務所に顔を出す。なぜだか前来た時と空気が違う。事務員さんも妙にウキウキした感じだ。白河さんはすぐにおれを見つけて、満面の笑みでこっちに走ってきた。


「いやあ葉山、待ってたぞ、さあ応接室へ」

「あの……」

「いいからいいから」


 やっぱめんどくさ! そう思いながらも開けられる応接室の扉の向こう、そこに彼女はいた。


 歌姫、愛内麻美ーー。


 息を飲むって、本当に飲んだ。ゴクッて喉鳴ったけどどうでもよくて、顔小さくてドールみたいでただただ可愛い。


「マジっすか! 大ファンっていうか大好きです!」


 天使。自然と声も大きくなっている。大きな瞳、薄い唇、流れる髪、発せられる後光、その可愛いさに圧倒され涙さえ溢れてくる程。え、写真とかサインとか貰って家宝にしたい!


「紹介しますね、こちらが先程話してた……」

「葉山一志です!」


 白髪オヤジは少し黙っててほしい。ヤバイヤバイ、月曜日に朝一で竹内にスゲー自慢したい。

 促され愛内麻美の正面のソファーに座る。釣られて彼女の身体のいろいろ角度がこっちに向く。動いてる、所作とかもうなんか全部がいい。


 歌姫の微笑みは、カンタンにおれを貫く。


 なんか匂いとか深呼吸して全部吸いたい、変態だって罵られようが構わない、今この目で見ている愛内麻美の記憶を未来永劫、子孫末代、いやそんなん無理だけど残したい。


「はじめまして、葉山一志くんだね。僕は愛内麻美のマネージャーです」」

「あ、はじめまして」


 マネージャーっていうなんかカッコいい響きの細メガネの男性が、名刺をおれに差し出した。


「彼女、愛内麻美さんが君に会いたがっていてね」

「愛内麻美が、おれに」

「愛内麻美さんね」

「あ、すいません」


 愛内麻美さんが君に会いたがっていてね? 愛内麻美さんが君に会いたがっていてね? 愛内麻美さんが君に会いたがっていてね? 恋か、まさかこれが恋の始まりなのか?


 それ以前にやっちまった、おれは歌姫を呼び捨てにしてしまった。名前なんだから考えなくてもそうで、メディアの中じゃなくて目の前にいる訳で、でも愛内麻美さんは気にする気配もなく天使のよう。


「とりあえず説明するね」

「はい!」


・1ヵ月後、テレビで生放送の番組がある。

・愛内麻美さんはそこで新曲を披露する。

・おれにはピアノの伴奏をお願いしたい。

・世界大会に出場する高校生のピアニストなら話題になる。

・演奏自体はそんなに難しくない。

・当然ギャラも払う。


 とまあ、細メガネは丁寧につらつらと、1つずつ説明してくれた。


「……はあ」

「葉山くんは彼女のファンなんだよね、うちの愛内麻美さんと演奏できる機会なんてもう2度とないよ」


 笑顔の歌姫に視線を送る。そういえば歌姫、一言もしゃべってなくね?


「クラシックっていう比較的マイナーなジャンルも、まあそれはそれでいいけどね、テレビ出れたら女の子にもモテるよ」

「まあ」


 感情が爆発したからかなんなのか、なんか急に冷静になった。今なら崖から崖へ、長い棒持って綱渡りしたとしても冷静でいられると思う。


「わざわざ茨城まで来たんだし、どうかな?」


 どうかな、そう答えを聞かれて冷静に? 冷めた? 感情で愛内麻美さんを視界に入れた。


「お断りします。白河さん、帰っていいですか?」

「ああ、悪かったね気をつけて」

「え、あ、ちょ……」

「じゃあそういうことなので」


 応接室から出る際に、失礼しますって言いながら最後にもう1回だけ愛内麻美を見る。

 笑みが消えたその顔にお辞儀してそのまま部屋を出た。

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