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ナントの街

 ……田舎? 


 これのどこが田舎だ。病室から見えるナントの街のオシャレだことオシャレだこと。整然と並ぶ白い壁、西洋っぽいお城のような建物に人が住んでいるという現実、思い描くファンタジーの世界。

 ロワール川の中洲にも街が形成されていて、いくつもの橋が南北をつないでる。フランス人にも人気があるみたいで、僕もそう思う。


 お買い物ならパリだろう、でも住むならナント。


 他の街には行ったことはないけど、グリーズマンとパトリシアさんの先祖が建てたかどうかも知らないけど、すっごくいいところに家あるなって思う。

 本当にこんなところに別荘があったらなんて、そんな夢に憧れるけど10億……まあ無理。


「リーナちゃんがお医者さんとたくさん話してくれてて」

「パトリシアちゃんとエマちゃんが手続きとか手配をすっごくやってくれて」


 病院で過ごすか家? あれ、家って言っていいのか? まあ家でいいか。家で過ごすかどっちでもいいって言われたけど、迷わず帰ることを選んだ。

 でも1日は様子見ようってことで帰ったのは次の日、曇り空でさえナントの建物と調和してて美しいって思う。


「(皆さんありがとうございます)」


 迎えに来てくれた車にはみんな乗ってて、笑顔で温かく迎えてくれた。


「(また迷惑かけるかもしれないけど)」

「(なにも迷惑はありません)」


 パトリシアさんの声にエマさんとリーナが笑った。


「(カズシが死んで生き返った)」

「(リーナ、僕死んでないからね)」


 イタズラっぽく笑うリーナ、どんな表情してもキレイだなこの人。モデル辞めちゃうのもったいなくない? 個人の理由はまあそうだけどさ。


「一志はまたリーナちゃんに見惚れてる」

「してないから!」

「葉山一志さん、それは大坂夏の陣の真田幸村、です」

「エマさん、さすがに意味が分からない」




◇◇◇




 それから数日、吐血もなく発作もなかった。治ったわけじゃないだろうけど、少しは落ち着いたのかな。

 同時に、2階に医務室が仕上がってカンタンな治療と点滴くらいはリーナが出来るらしい。うん、ホントに作ったよこの人たち。


「ねえ麻美」みんなで囲んでご飯食べてる。「ホワイトデー、ごめん余裕なくて買ってない」

「あは、あとで10倍に返してくれればいいよ」


 不思議そうに僕らを観察する3人。


「(ホワイトデーってなんですか?)」

「(なにって、バレンタインのお返し)」

「(……ん?)」

「(チョコレートをもらったら返さないとね)」

「(……ん?)」


 なんだろうこの話しの噛み合わなさ。エマさんの通訳を中心に5人で話したところ、どうやらホワイトデーという文化は日本独自のものらしい。というか、ホワイトデーって文化なんだ。


「(フランスでは、好きな人に花やランジェリー、それに高級なチョコレートをあげます。それとジュテーム、愛の壁がモンマルトルにあって、そこに名前を書いたりします。女の子から男の子に愛の告白をするという、日本の文化は興味深いです)」


 へえ、お返しとかないんだ。


「(アルゼンチンでは7月1日から1週間、キスをした回数のチョコレートをもらえます)」


 なにそれ! 2月14日ですらない。


「日本人はイベント事好きだし、海外の文化を日本独自にしちゃうっていうか、ラーメンだって中国のラーメンとは違うと思うし」

「(ラーメン、日本で食べたラーメン美味しかったです。卵がトロトロしてて)」

「(ラーメン美味しいですか? アルゼンチンにはないです)」

「あは、すっごく美味しいよ。日本に来たときにさ」


 チョコレートの話しがラーメンになって、ギョーザと牛タンの話しになって、みんなが笑ったり驚いたりしてる。

 女性とモデルと、エマさんだってきっとエリートで、でも中身は同じなんだなって、日本でもフランスでも優しい人に囲まれて、僕は穏やかな時間を過ごさせてもらってる。


ーーーー


宮野理沙:部屋の中に、大きなエッフェル塔があります

葉山一志:お、届いたね

宮野理沙:箱を開けたらフランスの空気が部屋に広がりました。え、ここ、フランスになっちゃったんですか? わたし、マドレーヌですか?

葉山一志:それ、多分なんか違う

宮野理沙:お兄ちゃん、ありがとうございます! お母さんはやかんピーピー鳴ってるの慌てて消しに行ったらつまづいて転びました

葉山一志:お母さん大丈夫?

宮野理沙:……あの、ネットで、自慢してもいい?

葉山一志:いいよ、ハートマーク押しとくよ

宮野理沙:お兄ちゃんサイコーです! ヤバイですヤバイですヤバイですヤバイです、これが、世に言う承認欲求ってやつですね!

葉山一志:楽しそうだね

宮野理沙:はい、すっごく!

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