3月1日(卒業式)
「生徒会よりお知らせします。2年3組の川上真弓さん、至急、体育館までお越し下さい。繰り返します。2年3組の……」
キョロキョロしてる川上さんを壇上に呼ぶ。
「……ウソ!」
「約束は守ったからね」
◇◇◇
全校生徒750人、加えて3年生の保護者250人、合わせて1000人が体育館に集まってる。僕を一目見たい、そんな目的の保護者もいるみたい。
式次第通りに、厳かに進んで行く進行。明らかに怪しいのは、壇上に幕で隠された一角。
もはやバレバレ。
愛内麻美が来るかも、なんてウワサは全校生徒に一瞬で流れて、厳かながらもみんなウキウキソワソワしてる。
「続きまして国歌斉唱。伴奏、葉山一志」
「はい!」
袖から壇上に上がる。日の丸に対して一礼しつつも、体育館の全体から漏れる声に耳を澄ます。
「一同、起立!」
『君が代』を弾くなんて久しぶりだなって、まるで国家の代表にでもなったような気分。
君が代は千代に八千代に
さざれ石の岩音なりて
僕の演奏で『君が代』を歌えるなんて嬉しいって両親が言ってて、よく分からないけど喜んでくれるならいいかって。
苔のむすまで
最後の余韻が終わると同時に、次の曲を始める。
「それでは、これより葉山一志くんによる記念演奏を始めます。曲はグロイスで『終わりなき明日』です」
僕のこの演奏はきっと、だれかがネットに上げて世界中が見るだろう。ガブリエウ・ブランも、その他のライバルたちも。
敵。
いいよ、好きなだけ僕の演奏を研究でも対策でもなんでもしなよ。それで僕が負けるならそれまでってこと。そんなことより僕は、今のこの卒業式を、しっかりやり遂げたいんだ。
今回は光らなかった。左耳から音も聞こえないし声も聞こえなかった。よく分からないけど、僕は僕の全てで演奏を終えた。
立ち上がって左胸を右手でポンてして、深くお辞儀をする。途端に上がる拍手は体育館を揺らした。
僕の演奏でみんなが拍手してくれるーー。
そんなことで嬉しくて笑顔になって、僕はもう一度ピアノのイスに座って両手を上げる。まだ弾きますよ、その合図でピタリと拍手が止まる。
行きますよ。
RICKs『GOAT』!
壇上から幕が引けると現れる音楽機材、同時に姿を出すメンバー。
「行くぜ!」
ユーヤさんの声で上がる体育館のボルテージに、体育館の生徒全員が前に駆け寄り、僕のピアノと歓声は一気に最高潮まで駆け上がった。
君の笑顔を見た日から
僕の心は止められなくて
ギキョウさんのギターがカッコイイ、マサトさんのベースが上手い、シンさんのドラムのリズムが余りにも正確で、それに即興でピアノを合わせる。
未来も過去も今も全部
2人のものだって勘違いしようぜ
楽しい、今この場にいることが楽しい。高速のリズムに鍵盤を叩く、叩く、叩く!
生徒会のメンバーには麻美が来ることは伝えた、けれどRICKsが来ることは伝えてない。
GOAT! GOAT! いつかきっと
GOAT! GOAT! 君と僕とで
GOAT! GOAT! その場所で
GOAT! GOAT! 叫んでやるのさ
サビが終わりBメロ、その声は、みんなの後ろから。RICKsに注目してたみんなはだれ1人気づいていない。
歌姫、愛内麻美ーー。
ライトが麻美を照らすと全員が歓声を上げて道を開けた。
「愛内麻美です。3年生のみんな、卒業おめでとー!」
麻美は『GOAT』を歌いながらゆっくり真ん中を歩き、壇上でRICKsと合流してハイタッチ、それから僕に笑顔を向けて、ラスサビはユーヤさんと一緒になって歌った。
「いやあ葉山くんに呼ばれて、まさかこんな形になるって思ってなくて」
「ユーヤくんもめちゃくちゃ楽しそうぢゃん」
「こういうの、やっぱええよな」
「そういうわけだからみんな、今だけのwfの復帰とRICKsとの共演、思いっきり楽しんで思い出作ってね!」
体育館の天井で跳ね返る歓声が凄まじい。全額、数百万を自腹で払ったなんてことはどうでもよくて、僕も全力で楽しんでる。
次の曲は『NOT ALONE』、RICKsっていう超一流バンドのアレンジはカッコよくて、ほとんど合わせなんてしてないピアノの音も、しっかりと捉えてくれてる。
「みんな、一緒に歌って!」
NOT ALONE
僕と見つめ合う君の瞳は
いつも勇気をくれるんだ
NOT ALONE
やっぱり照れてる君の顔だって
僕は守るといつまでも誓うんだ
それぞれの歌を1曲づつ、たった2曲かもしれないけど、きっとここにいる全員の心の中に一生、忘れられない思い出として残るんだと思う。
僕が出来ることはこれだけ。2年生の最後の日に、日本にいる間に出来ることはこれだけ。




