初めて拍手をもらって褒められた
1階のリビングで、縦型のピアノの隣りでお母さんとおしゃべり。内容のほとんどは、理沙さんとお母さんが僕をどれだけ好きかってことで、聞いてるこっちはかなり照れるし恥ずかしい気持ちになる。
「お待たせ、しました。うわ夢じゃなかった、ホントにいる!」
「そりゃいるでしょ」
「お母さん、知っとったの?」
「しっとーよ」
髪をまとめてリボンを付けて、楽しそうに話す理沙さんとお母さん。苦労ばっかりさせたってのは謙遜かどうかは分からないけど、今はすっごく楽しそう。
「じゃ、やろっか」
「うん。葉山くん、待っててください」
「理沙ちゃん、葉山くん年上でしょ? くん呼びどうなの?」
「大丈夫ですよ。ねえ待ってる間さ、『狼ちゃん』の7巻の続き読みたいんだけどいいかな」
「葉山くん、少女マンガ読むの?」
「うん、おもしろいよね」
「すぐ持ってくるので待っててください!」
理沙さんは『狼ちゃん』以外にも、オススメって言って『2階から目薬投げたら恋がはじまった』と『ティータイムは伊達政宗』を渡してくれた。
どれも途中で止まってたから、ゆっくり読もうと思う。
「ねえねえこんな感じ?」
「うん、いいじゃないかな」
楽しそうに聞こえる親子の会話。親子というより姉妹みたいだけど、この2人の親子の関係はこんな感じなんだろうな。
「お、お待たせしました。葉山くんのお口に合うかどうか、うわ、ばり緊張」
「どうぞ召し上がってくださいね」
「ありがとうございます。いただきますね」
それはココアパウダーが掛かった、小さな丸いトリュフの生チョコレートで、てっぺんに小さなハートが飾ってある。
フォークで半分にして、口に入れてもなんの味もしない。
「うん、すごく美味しい。なんていうか甘すぎないし優しい味がする。ありがとう」
ごめんね、ここだけはウソを言わせてね。一生懸命の女の子に、事実は必要ない。
「うわー、葉山くんが食べてくれた」
「理沙ちゃんよかったねえ」
「……うん。明日、友だちに自慢する」
「14日の放送終わってからでいいかな」
僕の提案に2人とスタッフさんは笑ってくれた。
「じゃあ僕からホワイトデーのお返しをしないとね。バレンタインもまだですっごく早いんだけどさ」
そう言ってピアノに座る。ここは放送しない、番組側も了承してくれてる。
『ニライカナイ』
クラシックに沖縄のエイサーのリズムを取り入れた、麻美の誕生日のプレゼントで弾いた曲。
「行くね」
最近の練習で、僕の音は格段にレベルが上がっている。自分でもそう思える。絶対的な違いは自信で、感情の変化が音を大きく左右してる。
ALLミュージック・ウェーブで弾いた『Lovin'』の心境とは全く違って、今弾いたらどんな曲になるんだろうって後悔もするけれど。あの心境であの曲だったから、あれでよかったのかもなんて、正解なんていくら考えても分からない。
曲が終わりに差し掛かるころ僕は気づいた。時と場所も考えないで、僕は本気で弾いていた。
怖がらせちゃったかな。
でも今さら変えるわけにもいかないので、怖がらせたらあとで謝ろうって思って、最後まで精一杯で、リビングで曲を完成させた。
「……どう、だったかな?」
番組のスタッフさんはカメラマンの男性と補助の女性が1人づつ、2人合わせると4人が僕をマジマジと見てる。感情を声にしたのはカメラマンの男性。
「スゲー、こんなの今まで聴いたことない」
ありがとうございますはいいけど、番組スタッフさんはしゃべらない方がよくない? あ、放送しないからいいか。それより理沙さんは? お母さんは?
パチパチパチパチ、聞こえてきた連続する破裂音は拍手。僕の演奏に、拍手?
「感動しました……」
拍手しながら涙ぐんで話す理沙さん。
「ええええ、なんでなんで? 葉山くんしゃべってるみたいに聴こえて」
よかった、大丈夫みたいだ。
「理沙さん、怖くなかった?」
「怖い? 怖くないです。むしろ親近感しかないです」
……親近感?
「ん? どういうこと?」
「ネットでそんなこと書いてあったけど、でも、そんなの全然ないです! よかとよ。あったかくて応援してくれてるみたいで」
ん? あったかくて?
「友だちに頑張ってって言うの、わたしが頑張ってないと言えないし。でも葉山くんのピアノ上手で、練習すっごく頑張ってて、あったかくて、優しくて、でねでね、ホントに心から、全力でわたしを応援してくれるみたいでね!」
……え?
麻美以外は初めてだった。両親も褒めてくれてたんだろうけどそれ以外で、僕は初めて、それも年下の女の子に、僕は褒められた。
胸に来るものがあるけど、僕がここで泣いたりしたらダメだと思うから、それだけは我慢してるけど言葉は、口と舌を滑らかに動かす。
「理沙さん、僕のことお兄ちゃんみたいって言ってたよね」
丸いおでこと丸い目がちょこんとこっちを見てる。
「僕の妹になる?」
「なる、なります、ならせてください!」
「じゃあ理沙、これからは番組関係なく、末永くよろしくね」
「はい!」




