羨ましい悩み?
「なんかさ、学校も時間がたって落ち着いて来て、僕もフツーの高校生って感じしない?」
「まあ一時期よりはな」
休み時間に竹内と日常の会話。
「ほら、元々が芸能人っていうタイプじゃないし、活動休止サイコーだね!」
「休止してからはだれかと連絡取ってるの?」
「悠とレイラはちょこちょこと雑談。『ゼンコイ』メンバーはたまに近況報告くらいかな」
「そうなのか。でも葉山がフツーかって言うと……」
「フツーぢゃん」
「廊下に並んでる皆さんに手を振ってあげたら」
手を振ると湧き上がる歓声。
「まあきっとあれだよ、生徒会長としての僕に用事があるんだよ」
「遠くから集団で見てるだけだけどな」
「そんな生徒会長の葉山くんにお仕事です」
梶さんの声が割って入る。
「……仕事?」
「1年生の女の子から恋愛相談を受け付けました」
「は?」
「けっこう大変みたいで、ぜひ恋愛のプロの恋愛マスターに相談に乗ってもらいたいと、生徒会宛の意見箱に入ってた」
は? プロ? マスター?
「えっと、それはだれのこと?」
「葉山くんに決まってるでしょ。『ゼンコイ』出てたし、愛内さんのこともあるしね」
「一応、だれとも付き合ったことない設定なんだけど」
「一般の人は知らないし」
「まあ、ね」
「一般の人? 一般? べ、別にわたしが芸能人ってわけじゃないし、あ、でも『NOT ALONE』のPV出たし、えへ、えへへ」
「……えっと、梶さん?」
「そ、そういうわけでお仕事、放課後よろしくね」
生徒会長ってそんなこともするの? まあ、分かる範囲でだいたいでいいか。
「竹内も来るんだろ?」
「行かないけど」
「なんでだよ、来いよ!」
「女の子の恋愛相談だぞ、プライバシーってもんがあんだろ!」
「竹内、そういうの気にするキャラだっけ」
「人は変わるのさ」
◇◇◇
放課後の生徒会室には、僕と梶さんと須藤さんと香奈美さん。川上さんは用事があるらしい。川上さんの用事? デートか、松野とデートか!
生徒会宛なので生徒会のメンバーで聞く。まあ僕1人だったら断るけど。
「あ、よろしくお願いします」
座る女の子は見たことあるようなないような、かわいらしい子。うん、フツーにモテそうだね。
「葉山です。一応、恋愛相談ってことで男性は僕だけで。ヘイキかな?」
「はい、ありがとうございます!」
恋愛相談。形はどうあれ高校生っぽくていいね。
「じゃあどうぞ」
「はい」
彼女、鈴村梨香さんは話し出した。
「わたし、異性にモテるんです」
特にだれが好きっていうのもなく、自分としてはフツーに生活してるだけ。なのに昔からよく告白される。そういう素振りを見せてるわけでもなく、でも男性の友だちがいること自体に抵抗はなく、仲良くなろうとすると告白されて気まずくなって関係は終わる。
「鈴村さん、確かに男性から人気あります」
香奈美さんの発言。
「女の子からやっかみとか僻みみたいのはあるの?」
須藤さんの質問に、今はないですと答えてた。
「だれかに言ったら自慢とかイヤミとか言われそうだし、でも結構しつこい告白もあって、勉強もはかどらないっていうか、1人で悩んじゃって」
梶さんが口を開く。
「まあねえ。内容的にはそう言われるような内容だし、それはよかったねって周りはひやかして終わりそう」
鈴村さんはイスから立ち上がる。
「そうなんです。でもこっちは真剣に悩んでるんです。男の子と関わらない方がいいかなとか、わざと冷たく接したらいいかなとか、わたし今は勉強を頑張りたくて、1日に2人とか3人とか、もう告白して来ないでって感じなんです!」
僕もイスから立ち上がって鈴村さんの元に向かう。目の前に立って彼女の手を取る。
「分かる、すごく分かる!」
目を丸くして驚いてる彼女の目を真剣に見る。
「そういうわけじゃないんだよって、気持ちはありがとうなんだけど僕は今そうじゃないんだよって。学校だけでもうすぐ100人だよ!」
4人の目が僕に集まる。
「だいたいさ、『ゼンコイ』出たときもユキとユアとレイラの好意は僕に向いたし、倉科悠と染谷マキさんだってそうぢゃん。麻美のメイク担当2人もそうなっちゃうし。ハルさんも葉山様の下僕とか言って来て、黒川亜里沙さんと朝比奈美琴さんはなんか隙あればって感じだし。海外の人もそう。パトリシア・ブリュネは愛してるとか言ってて、ソフィア・ギャリックは急に結婚とか言い出すし。この前の土曜日だってアンネ・ヨハンソンは抱きついて離れないし、東郷蘭さんだって大好きとかいきなり叫ぶし。もうどこ行ってもそう。ハーレムかよって。気持ちはね、本当にありがとうなんだけどね!」
ああ、いっぱいしゃべってスッキリした。静まる4人。
ん?
「あ、今の、なし」
「キャー、なにそれなにそれ!」
「葉山先輩スゴすぎます!」
「葉山くん、さすがにそれどうなの?」
「うわー、引くレベル。わたしなんかまだまだでした。先輩に追いつけるように頑張ります!」
……鈴村さん、いいの、それで。




