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歌姫の全力の愛が、僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
22/328

垣間見る才能

「愛内さん特別感ってなんですか?」


 ピアノと歌の練習の合間、愛内さんの声を休憩させて手にして少女マンガ、晴れた日に出会った2人、その中で描かれたシーン。

 愛内さんがマンガの題名を見て、ああなるほどなんて頷いている。


「周りには冷たいのにわたしにだけ優しいとか、わたしだけ愛されてるっていう優越感かなあ」

「……なんか難しそうですね」

「ところで葉山くん、一応言っとくけど」

「はい?」

「葉山くんをわざわざ、スケコマシにしたんじゃないんだからね!」

「……いや言い方」

「恋愛禁止だからね恋愛禁止、キ・ン・シ、ね。分かった?」


 なんかまだ怒ってそう。禁止言われたってそんなモテないし興味ないし。


「まあ別にそんなヘイキかと……」

「分かった?」

「……はい」

「全くもう、わたしがいればよくない?」


 おっしゃる通りです。


「でも今日の梶さんの反応見てると、明日から学校行くのちょっと不安なんですよね……」

「別によくない? 20日後の土曜日には日本中の王子様になっちゃうし、クラスとか学校とか一瞬でしょ!」


 20日後の土曜日、夕方6時半から10時までの生放送番組ーー日本音楽祭。


 去年の下半期から今年の上半期にかけて人気の歌手が一同に揃い、それぞれが歌を披露する。ある歌手はコラボで、またある歌手は自分のコンサートの生中継に、と、そういや毎年あるような気がする。


「現実味が……」

「男性版のシンデレラストーリー、ワクワクするしテレビの力を甘く見ないようにね」

「そんなにですか?」

「うん、もう大爆発!」

「大爆発?」


 インターネットに興味がなくはないけど、出来るだけ使わないようにしてる。楽譜が欲しければショップで買えばいいし、調べたいことがあったら図書館に行けばいい。

 すぐに答えが分かるっていうのは便利だけど、なんか手に取ってこうさ、まあいいけど。


 それに。


愛内麻美 モテモテの男性遍歴

愛内麻美 人気曲

愛内麻美 歴代の彼氏

愛内麻美 悪女

愛内麻美 ベスト

愛内麻美 現在の彼氏 だれ


 ……ほうらね。


 知りたい情報だけ出てくればいいのに、知りたくない情報まで知らされる。加えて、知りたくない情報の方がやたら気になるし目につく。


 有象無象の罵詈雑言、そんなのどうでもいいわけで--。


 そうじゃなくて図書館では調べられないようなことを検索、画像と実物を見比べる。


 カルティエ、27万円、27? ニジュウナナ? 今日の服より高くない? わたしにはこれくらいしかできないけどね? これくらい? なんだ僕もしかしてヒモ?


 クラスにもグループトークはあって、それが男性用とかいくつも存在している。このグループには入っててあのグループには入ってなくて、とかいうあれ、めんどくさいやつ。

 僕、ははは、全く入ってない! なにかあれば竹内に電話して聞けばいいし、それに友達少ないしって、はは。


 だから知らなかった。


 もう既に、梶さんが撮った写真がグループからグループへと伝わって、学校中に広がっていることを!




◇◇◇




「愛内さん、普通に話す分にはヘイキですけど、大きな声出すとか昼間は少し控えてもらえると」

「葉山くんが言うならそうする!」


 僕のピアノと合わせを続け、愛内さんの声の幅が少し広がったような気がする。本番前は調整が必要だろうけど、他に仕事もあるだろうし、まだ焦らなくてもいいと思う。


「愛内さん、披露する曲、試しに弾いてみますね」

「うん、録画していい?」

「どうぞ、ただベースっていうか基本なので、いつも違くなると思いますけど?」

「ん? ……どういうこと?」


 愛内さんの声を聞きながら演奏し、その時の調子によって変えるってこと。

 演奏する場所、体温、緊張、疲労、ピアノの個体差、鍵盤の重さ、壁の質、空間の広さ、反響、お客さんの人数、客層、温度、湿度……考えることはたくさんあるわけで。


「……そんなことできるの?」

「皆さんはどうしてるんですか?」

「どうしてって、アンプで調整したり、楽譜通り……」

「ピアノにアンプって繋げられないんじゃ……」


 まあとりあえずやってみよう、どっちがいいか聞いたらフルでっていうリクエスト。


「行きますね」


 イントロからAメロBメロサビ、構成は変えずに2のABサビ、ソロC大サビアウトロ、確かにボーカルパートの構成は同じ、ボーカルパートは。


 けれどピアノは違う。


 大サビでボーカルを支えるなんてしない、容赦なく一気に上げる、AメロBメロで徐々になんて関係ない。


 愛内さんの声とぶつかり合う!


『あなたへ』


 愛内さんの書いた歌詞、何度も何度も読んで覚えて、愛内さんの声、毎日聞いてクセをつかんで書いた。


《葉山くんにわたしの伴奏は求めてない》

《お互いにやりたいことやって》

《曲の中でいっぱいぶつかって》

《たくさんケンカすればお互い分かり合えると思う》


 彼女が求めた曲、おれの精一杯。


「……どうですか?」


 愛内さんは両手で顔を覆い肩を振るわせている。


「すごい……すごいよ、葉山くんありがとう」

「いえいえ」


 感謝された。


「すっごく上手、褒め方へたでごめんね」

「そんなこと……」


 褒められた。


「歌えるかな、これわたしに歌えるかな……」

「一緒にたくさん練習しましょ」

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