プレゼント交換
「実はさ……」
手に持っていたバッグから用意してた箱を取り出した。明日は忙しいかなって思って、持って来ておいてよかった。
「これなに?」
「麻美への、僕からのクリスマスプレゼント」
「え、ホントに?」
「うん。でも麻美になにをあげたらいいか分からなくて、僕も鹿島さんに相談したんだ」
「そうだったんだ。開けていい?」
「どうぞ。気に入ってくれたらいいんだけど」
箱を開けると広がる麻美の瞳孔、口はアゴを上に向け、麻美の頬をピンクに染めた。
「え、カワイイ! なにこれ、こんなの見たことないんだけど!」
「なんか日本未発表とか言ってた。麻美に似合うって言ってたからさ」
「え、スゴーイ! すごく嬉しいんだけど! ファッション関係のことでこんなにビックリしたの初めて!」
大きかった目の黒目が見えないくらい細くなって、代わりに口が左右に広がってえくぼを作った。
「喜んでくれてよかった。なにをあげていいか悩んでさ、鹿島さんがオススメしたのなら間違いないだろうけど」
「ありがとう。へー、一志いっぱい悩んでくれたんだ」
「そりゃあね、相手が麻美だし」
「一志から貰える物はなんだって嬉しいよ。一志、大好き!」
「古川さんと五十嵐さんいるけど」
呆れながらも笑ってる古川さん、照れながら「尊い」とか「至高」とか騒いでる五十嵐さん。
「いいもーん。ねえ、首に付けて」
「今?」
「今!」
箱からネックレスを取り出して、麻美の首に回そうとしたら麻美が後ろを向いて、なるほど確かにその方が付けやすいよね、なんて考えながら細い首の後ろでフックを止めた。
「え、すっごくいいぢゃん!」
小走りに姿見の前に行ったと思ったらクルッと身体を回転して、それはただの女の子のようで、無邪気にはしゃぐ麻美を見てるだけで嬉しくなった。
「これ付けて明日歌うね。お互いのクリスマスプレゼントを2人で身につけて、あは、幸せカップルみたいですっごく楽しい!」
Nスラッシュにも染谷さんにもだれにも見せない麻美の顔は、僕だけの宝物だと思う。
◇◇◇
メインステージに向かう途中で、ゼフィランサスのメンバー、東京ロケットスターの皆さん、秋月ユイさんとすれ違ったので挨拶した。
秋月ユイさんは「よろしくお願いします」って丁寧にお辞儀までしてくれて、春秋対決なんてハルさんを煽ってる感はしない。
麻美が挨拶してる顔を知らない人たちは、きっとテレビ局の関係者とかなんだろう。右向け右で同じように挨拶した。
「この先だね」
ドアを開けると広がる空間、そこに佇んで歌ってる女性。
東家薫子ーー。
たまにメディアから流れてた曲は、生の声だと全く印象が変わる。麻美の次の歌姫、なるほどなんて思いながら彼女の歌に聞き入った。
「いいでしょ、彼女」
「うん、そうだね」
歌声はソフィアに遠く及ばない、経験は麻美に到底敵わない。でも人の心を惹きつける歌声には、たくさんの魅力と明るい未来が詰まっているよう。
「次、使っていいって」
「分かった」
歌い終わって小さくぺこってお辞儀をして東家さんはステージを降りた。途中、すれ違った時もまたぺこって、こっちもお辞儀を返して麻美と2人でステージに立ってみる。
天井の照明の光量が多い。客席が近い。200人くらい入るのかな、明日を想像すると緊張感が増してくる。
「あっちがいわゆるひな壇、座りたい歌手が自由に座るとこ」
「なるほど」
「じゃあせっかくだし『NOT ALONE』だけ、軽く合わせようか」
「分かりました」
『NOT ALONE』だけ、麻美はまだ歌詞で悩んでるみたい。
用意してくれたピアノのイス座る。どこで弾こうが目の前にあるのは白と黒の鍵盤、それでも空気は伝わる。
演奏を始めると音の中に明日の空間が見えてきた。中学生50人のコーラス、スポットライト、麻美の背中、お客さんたちの表情、ひな壇に座るプロたちの視線、僕と麻美を捉えるいくつかの大きなカメラ、失敗は許されないだろう生放送の雰囲気。
ピアノはすごく弾きやすい。きっと調律師さんが時間をかけて、丁寧に仕事をしてくれたんだろう。
歌が終わるとパチパチって軽い拍手が聞こえた。それに応え立ってお辞儀をして、もう一度ここからの景色を確認してステージを降りた。
「どうだった?」
「悪くないとは思います」
「なにか引っかかる?」
「いえ、ただ、ちょっと熱そうだなって」
「かもねえ。お客さん入ると余計にね」
「それに緊張感、少しずつ大きくなってきますね」
「それはだれだってそうだよね」
「愛内さんも?」
「当然。とりあえず夜走ってくる」




