表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/328

プレゼント交換

「実はさ……」


 手に持っていたバッグから用意してた箱を取り出した。明日は忙しいかなって思って、持って来ておいてよかった。


「これなに?」

「麻美への、僕からのクリスマスプレゼント」

「え、ホントに?」

「うん。でも麻美になにをあげたらいいか分からなくて、僕も鹿島さんに相談したんだ」

「そうだったんだ。開けていい?」

「どうぞ。気に入ってくれたらいいんだけど」


 箱を開けると広がる麻美の瞳孔、口はアゴを上に向け、麻美の頬をピンクに染めた。


「え、カワイイ! なにこれ、こんなの見たことないんだけど!」

「なんか日本未発表とか言ってた。麻美に似合うって言ってたからさ」

「え、スゴーイ! すごく嬉しいんだけど! ファッション関係のことでこんなにビックリしたの初めて!」


 大きかった目の黒目が見えないくらい細くなって、代わりに口が左右に広がってえくぼを作った。


「喜んでくれてよかった。なにをあげていいか悩んでさ、鹿島さんがオススメしたのなら間違いないだろうけど」

「ありがとう。へー、一志いっぱい悩んでくれたんだ」

「そりゃあね、相手が麻美だし」

「一志から貰える物はなんだって嬉しいよ。一志、大好き!」

「古川さんと五十嵐さんいるけど」


 呆れながらも笑ってる古川さん、照れながら「尊い」とか「至高」とか騒いでる五十嵐さん。


「いいもーん。ねえ、首に付けて」

「今?」

「今!」


 箱からネックレスを取り出して、麻美の首に回そうとしたら麻美が後ろを向いて、なるほど確かにその方が付けやすいよね、なんて考えながら細い首の後ろでフックを止めた。


「え、すっごくいいぢゃん!」


 小走りに姿見の前に行ったと思ったらクルッと身体を回転して、それはただの女の子のようで、無邪気にはしゃぐ麻美を見てるだけで嬉しくなった。


「これ付けて明日歌うね。お互いのクリスマスプレゼントを2人で身につけて、あは、幸せカップルみたいですっごく楽しい!」


 Nスラッシュにも染谷さんにもだれにも見せない麻美の顔は、僕だけの宝物だと思う。




◇◇◇




 メインステージに向かう途中で、ゼフィランサスのメンバー、東京ロケットスターの皆さん、秋月ユイさんとすれ違ったので挨拶した。

 秋月ユイさんは「よろしくお願いします」って丁寧にお辞儀までしてくれて、春秋対決なんてハルさんを煽ってる感はしない。


 麻美が挨拶してる顔を知らない人たちは、きっとテレビ局の関係者とかなんだろう。右向け右で同じように挨拶した。


「この先だね」


 ドアを開けると広がる空間、そこに佇んで歌ってる女性。


 東家薫子ーー。


 たまにメディアから流れてた曲は、生の声だと全く印象が変わる。麻美の次の歌姫、なるほどなんて思いながら彼女の歌に聞き入った。


「いいでしょ、彼女」

「うん、そうだね」


 歌声はソフィアに遠く及ばない、経験は麻美に到底敵わない。でも人の心を惹きつける歌声には、たくさんの魅力と明るい未来が詰まっているよう。


「次、使っていいって」

「分かった」


 歌い終わって小さくぺこってお辞儀をして東家さんはステージを降りた。途中、すれ違った時もまたぺこって、こっちもお辞儀を返して麻美と2人でステージに立ってみる。


 天井の照明の光量が多い。客席が近い。200人くらい入るのかな、明日を想像すると緊張感が増してくる。


「あっちがいわゆるひな壇、座りたい歌手が自由に座るとこ」

「なるほど」

「じゃあせっかくだし『NOT ALONE』だけ、軽く合わせようか」

「分かりました」


 『NOT ALONE』だけ、麻美はまだ歌詞で悩んでるみたい。


 用意してくれたピアノのイス座る。どこで弾こうが目の前にあるのは白と黒の鍵盤、それでも空気は伝わる。

 演奏を始めると音の中に明日の空間が見えてきた。中学生50人のコーラス、スポットライト、麻美の背中、お客さんたちの表情、ひな壇に座るプロたちの視線、僕と麻美を捉えるいくつかの大きなカメラ、失敗は許されないだろう生放送の雰囲気。


 ピアノはすごく弾きやすい。きっと調律師さんが時間をかけて、丁寧に仕事をしてくれたんだろう。

 歌が終わるとパチパチって軽い拍手が聞こえた。それに応え立ってお辞儀をして、もう一度ここからの景色を確認してステージを降りた。


「どうだった?」

「悪くないとは思います」

「なにか引っかかる?」

「いえ、ただ、ちょっと熱そうだなって」

「かもねえ。お客さん入ると余計にね」

「それに緊張感、少しずつ大きくなってきますね」

「それはだれだってそうだよね」

「愛内さんも?」

「当然。とりあえず夜走ってくる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ