表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/320

ウエディング

千葉県千葉市美浜区

ロイネットホテル三洋・ホールB

『安川家・小野家、披露宴会場』ーー




 タキシードを着て麻美と2人、ホテルのスタッフさんに付き添われて大きなドアの前で待機。


「ホントに大丈夫?」

「うん」

「無理してない?」

「麻美ほどじゃないよ」

「でもさ」

「せっかくのドレスとティアラ、さあ笑顔でって、僕の方が年上みたいだね」

「分かった、切り替えるね」


 ホールの中には500人。新婦の春香さんが麻美の昔からのファンで、それを知ってる新郎の安川雅史さんから連絡があったとのこと。

 麻美も春香さんのことは知ってたらしく、わたしでよければということで実現したらしい。


 高砂? たかすな? たかさご? 相撲の話しじゃないよな。安川雅史さん、春香さん、名前間違えちゃダメなやつだってと思う。


「皆さま、本日はお2人のお祝いに、ステキなお客さまが駆けつけてくださいました。正面左手の入り口にご注目ください、それではお願いします」


 ドアが開く前に2人でお辞儀で待機。ポンと胸に手を当てて注射器を確認する。

 『NOT ALONE』のBGMが流れると同時に開かれる扉、ホール内の歓声が光と共に僕たち2人を迎え入れた。


「ウソーー!」

「え、本物?」

「キャーーーー!」

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」


 2人で同時に顔を上げると広がるスーツとカメラとスマホの群れ、僕は麻美の隣りで笑顔でいればいい。


「愛内麻美wf葉山一志のお2人です!」


 たかさご? の白いウエディングドレス姿の新婦さんは泣いちゃって、寄り添う新郎さんはすごく幸せそう。

 進行の人がマイクを麻美に渡して、麻美は笑顔で、嬉しそうに話しだした。


「安川雅史さん、春香さん、ご結婚おめでとうございます」


 麻美の言葉に拍手で盛り上がる会場。


「わたしが沖縄から出て来てこっちで活動し始めて、不安でいっぱいだった頃から春香さんは応援してくれました。コンサートとか今日も来てくれてるって、姿を見つけると嬉しく思ってました」


 新郎新婦の2人は真っ直ぐに立って、麻美の言葉を一言も聞き漏らさないよう、真剣に聞き入っている。


「ファンレターもたくさん頂いて、わたしがここにいるのはその恩返しです。お2人の新しい門出に、ささやかながら歌を添えれればと思います」


 新婦さんはもはや号泣、涙で麻美が見えないんじゃないかって心配するほど。


「『NOT ALONE』、『永遠の時の中で』、お2人のために歌わせてください」


 麻美の合図でグランドピアノに座る。ホール内が暗転し、高砂、と僕たち2人の4人だけをライトで照らす。


『NOT ALONE』

『永遠の時の中で』


 演奏が難しくない曲をお願いして、麻美が選んでくれた。今日の主役はきっと2人の方で、僕と麻美は役割のひとつ。

 鍵盤の音を確認しながら、聞こえづらい左耳を頼りに曲を構成する。


 海はだれの心も癒やしてくれて

 でも近くに寄ればゴミで溢れてて

 そんな存在になりなさいって

 あなたの前ならなれるかなって


 新郎新婦の2人は本当にお似合いだなって、僕と麻美もそう見えたら嬉しいなって、新婦さんキレイだなって、でも麻美の方がキレイだなって。


 永遠、なんて言葉にして

 恥ずかしいって照れるあなたに

 わたしは誓う


 ずっとずっといつまでも

 添い遂げるって、隣りで歩むって

 わたしは誓う


 難しいことは関係なしに伴奏に徹した。演奏に自信がないのは最近ずっとそう、でも自分の気持ちとか今はどうでもよくて、2曲を無事に演奏出来たことがすごく安心できた。

 曲を終えて2人でお辞儀、ホール中に広がる大きな拍手、皆さんの温かい笑顔に来てよかったって心から思う。


「愛内麻美wf葉山一志のお2人にもう1度、大きな拍手をお願いします!」


 その後は新郎新婦を囲んで4人で記念撮影、そのご友人に囲まれてまた撮影、それから親戚? 仕事先の人? いろんな人と写真を撮って会場を後にした。


「新婦いいなあ、キレイだったね」

「結婚したくなった?」

「当然!」

「麻美はドレス何色がいい?」

「そうだなあ、やっぱり白、赤もいいなあ。ピンクのミニも……」


 トトトって後ろから近づいて来る足跡。振り返ると中学生くらいの女の子がハアハア息切らしてて、スタッフさんに捕まってた。


「どうしたの、大丈夫?」


 麻美の優しい声。


「あ、あの……」

「ん、なあに?」

「愛内さんと、葉山さんと、憧れてて、わたしも歌手になりたくって……」


 モジモジしてる女の子の頭に、麻美は身に付けてた小さなティアラを飾った。


「わたしからのプレゼント。練習いっぱい頑張って歌手になってね」

「は、はい!」


 笑顔の麻美と女の子。将来の歌姫は、こうやって誕生するのかもね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ