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歌姫の全力の愛が僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
20/326

洋服

 リビングに大量の洋服が並べられている。芸能人って大変だなあと心から思う。

「これとこれ、いやこっちかな」なんてやたら楽しそうに、愛内さんは上着にズボン、靴下となんだこれ、種類の名前、なんていうのか知らないような洋服、洋服。


 愛内さんは昨日のことはなかったことにしてくれてるよう、一晩寝ておれも考えないようにしている。


「大変ですね、カワイイっていうかカッコイイの多いですね。衣装ですか?」

「え?」

「……え?」

「全部、葉山くんのだけど」

「……これ全部ですか?」

「うん。社長からゴーサイン出たら予算がいっぱい出てさ、ついつい楽しくなっていっぱい買っちゃった!」


 洋服、いる?


「ピアノ弾くだけですよね、スーツかなんか着るんじゃないですか?」


 印象操作ーー高貴でスマートな印象付けのために、ある程度は生活で慣れておいた方がいいだろうとのこと。


「でもフツーここまでします?」

「なんか社長ノリノリなのよ。本当デラックス!」

「ごめんなさい僕が悪かったです」

「あはは」


 愛内さんなりの気遣いなんだろうか、優しさにほっとした。


「じゃあこれとこれとこれ、全部着替えて来て。ここで着替えてもいいけどね」

「……あっちで。サイズとかは」

「完璧!」


 そうだったこの人、日本でファッション最強の人だった。たくさんの洋服を抱えて自室に移動、試行錯誤するとこもあったけど多分合ってると思う、多分。


「……こうですか?」

「ちょっとこっち来てもらえる?」


 すごく真剣にここをこうとか、こうしてとか、僕の周りでなにかしてる。


「よし、さ、鏡見てみて」


 促され姿見の前へ、映し出される僕。


「どう?」

「……芸能人っぽいです、カッコイイ」

「でしょ!」


 きっといわゆるハイブランドってやつなんだろう、洋服がこんなにも心踊るなんて知らなかった。


 王子様ーー本当に自分をそんな気にさせてくれる。


「さあて葉山くんに問題です。それ全部でいくらでしょう?」


 いくら? 多分5千円ってことはないよな?


「2万、円?」

「インナーとジャケット、パンツにハーフコート、全部で23万円」

「に、にじゅうさん?」

「本当はもっと上でもよかったんだけど、高校生だからある程度で無難にしといた」


《高校生だからある程度で無難にしといた》《高校生だからある程度で無難にしといた》《高校生だからある程度で無難にしといた》


「それと、これはわたしからのプレゼント、あげるね!」

「あ、ありがとう、ございます」


 時計。


「なんかね、葉山くんは将来、億単位で稼ぐから今のうちの初期投資なんだって。葉山くんには今までの分も幸せになってもらいたいんだあ。わたしにはこれくらいしかできないけどね」


「じゃあその格好でお散歩してきて。できるだけ人多いとこ行ってね。なにかあったら人と待ち合わせしてるって言って、笑顔でまた今度って去るように。あ、その靴7万円ね」


「いってらっしゃい!」




◇◇◇




 情報量、多!


 おれ7万円の上に乗ってんの? いやなんなら両手で抱えて裸足でいいですけど! プレゼント? ありがとうございます、いや、愛内さんからプレゼント? お返しは? 23? 初期投資ってなに、億、そんな稼げるかー!


 確かに2億とか口座にありますよ、でもあんまり形にしたことないし、正直使うの怖いし、あれ? 大人ってこんなだっけ?


《わたしにはこれくらいしかできないけど》


 日本のファッションリーダーにコーディネートとか時計のプレゼントとかしてくれる日本人が、いったい何人いるんですか?


 こんな緊張した散歩をしたことがない。ピアノの練習の気晴らしで散歩とかしたけど、一歩一歩がなんか怖い。

 人多いとこ行けって、とりあえず駅の方に向かう。周囲の視線が気になる、慣れない靴がくるぶしに当たる、カツカツ聞こえる足音がおれの足音じゃないようでやっぱ怖い!


 駅の前のロータリーに近づく頃には少し気持ちも落ち着いてきた。靴ズレしそうとか思うけど、その靴ズレが治った時にはそのブランドに並べる気がする。


 どこのだろ?


 GUCCIーー踏んでますけど!


 ロータリーで少し休憩、はあマジで無理! ちょっと風が冷たくてハーフコートに手を入れる。すーっと視線を移すと何人かの女性と目が合った気がした。気のせいだろうけどやっぱり恥ずかしい。

 ロータリーから駅に向かう。すれ違う女性がこっちを、あ、こういうのを自意識過剰っていうのか。


 改札入口、日曜日のお昼前。けっこう人多いなあなんて思う。


「あの……」


 腕を飾る時計、愛内さんからのプレゼント、愛内さんからプレゼントもらっちゃったって実感が湧いてきた。


「あの……」

「……はい?」


 振り返ると女性が2人、だれ? おれに用?


「1人ですか?」

「あ、はい」

「そうなんですか、カッコイイなって思って」

「え、あ、ありがとうございます」

「年齢いくつなんですか?」

「……17」


 見えない、もっと上かと思った、そう笑う2人。なんだろう、愛内さんがなにかあったら人待ってるって、また今度って笑顔で言えって言ってたよな、笑顔で。


「ごめん、今人待ってて。また今度」


 そうなんだって手を振って去ってくれて……ナンパ? ナンパかこれ、おれ逆ナンされた? いやいや多分、電車の乗り方とか聞いたりとか自動改札の使い方が心配とかさ……。


「あの……」


 今度はなんですか?


「葉山くん、だよね?」

「……梶、さん?」

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