2度目のカラオケ
前に来たところと同じ、チェーン店のカラオケ屋さんで竹内が受け付けやってくれて、それを待ってる。
後ろにも何組かいるけど、ウィッグとメガネで本当にバレる気配すらない。
「行こうぜ」
部屋に向かおうとすると女性の店員さんが、近づいて小声で話しかけてきた。
「あの、葉山一志さん、ですよね?」
「あ、はい」
あ、バレた。
「すいません。お写真撮って店内に飾りたいんですけどいいですか?」
「いいですけどここじゃ……」
「ではあとでお部屋で」
「それなら大丈夫です」
ワンドリンクでウーロン茶を頼んだ。持ってきてくれた女性の店員さんが、キャッキャッ騒ぎながらデジカメを手にしてる。
「すいません、お願いします。あ、皆さんご一緒で」
僕を中心にみんなが、みんなの方が得意げで、ウィッグとメガネ外してレンズのフレームに収まった。
「それじゃ、歌おうか!」
川上さんがRICKsの『GOAT』を歌って竹内がライジンの『君は恋人』、須藤さんはりりるるさんの『ひらり』、梶さんは藍坂佳織さんの『いつか』、須藤さんはフォウ・ムラサワさんの『桜のつぼみ』。
やっぱり一番うまいのは北原。アンダーコアの『パープル・レイン』にみんなが聴き入った。麻美とかソフィアとか、比較するレベルがあれだけど、このままじゃもったいない気がする。
「北原、やっぱうまいな」
「だよね。フツーに上手」
「い、いや、そ、そんなこと」
「将来プロになれば?」
「プ、プ、プロ、プロ!」
僕は試しに『NOT ALONE』、編曲されてる感じが面白いし、コーラスは本物いるしで盛り上げった。
「なにか食べようぜ」
「ホントにおごらなくていいの?」
「足りなかったらよろしくね」
「分かった」
運ばれてきた料理は色とりどりで美味しく見える。ソーセージを口に入れたらパリって音がして、味がなくて油っぽいのが苦手だった。
「ねえ、みんなに聞きたいことあるんだけど」
「なになに?」
須藤さんが楽しそう。
「僕がもし芸能人じゃなかったら、カラオケ行く?」
「友達だしそりゃ行くだろ」
「そうだよな」
当たり前の質問に当たり前のような回答。
「でも今みたいに仲良くなれたのかなっては思う」
「確かに。竹内がなにかやらかしそうだし」
「おれかよ!」
「多分な」
友達、僕の周りの友達はこんな感じ。
「にい、なんか悩み事?」
「悩み事っていうか、もし悩み事があったらだれに相談するのかなって」
うーんって考えだすみんな。
「相談の内容によるかな。恋愛とかなら友達だし、お金のことは親かな。進学のことは先生とか?」
内容による、梶さんの意見にそうだよなあって納得する。
「じゃあ、相談したい相手が相談できなかったりいなかったりしたら、そしたらどうする?」
「にい、どうしたの?」
みんなの視線が僕に集まる。
「例えばさ……」
みんなには言える、それにほかに話せる人は僕にはいない。
「あるところにピアニストがいました。そのピアニストはそれなりに人気があって、大きな大会も控えてます。でも実は病気でそれが悪化してて、人の半分って言われてたのがあと10年しか生きられません。ガンにもなりそうです。左の耳はほとんど聞こえなくて料理の味も分からなくなって、精神も半分おかしくなってます。大きな大会に出ても勝てそうにないし、ピアノも上手に弾けません。さて、そのピアニストはどうしたらいいんでしょう」
だれも、なにも話さない。
「ねえ、僕はどうしたらいい?」
「葉山、マジ?」
「……うん」
「それ、愛内さんには話したのか?」
「左耳と味覚のことはまだ言ってない」
「なんで?」
「麻美さあ、来年から仕事減らすんだよ。だから今が集大成っていうか、すごく大変そうで。言ったらきっとすごく悲しんじゃうかなって」
「でもさ」
「来年になったら話そうかなって」
右腕の袖をまくる。腕に残った10センチ以上の傷跡にみんながギョッとした。
「沖縄行く前に精神がおかしくなって、揉め事があってこれ残った」
「全部……」須藤さんの声が震えてる。「全部、やめちゃえばいいぢゃん。そしたら、そしたらさ、普通の高校生になって、それで……」
泣かないようにして頬が痙攣しないように力入れてガマン。
「葉山くん、愛内さんに全部話して」
梶さんの声が強い。
「全部、終わっちゃうかもよ?」
「それでも、それでも死んじゃうより全然いいっていうか、そんなのわたしだって分かんないよ! なんで葉山くんばっかり……」
「あ、あの……」
「ん?」
北原が割って入ってくる。
「な、なにが大事かって、一番大事なこと、そ、それを大事に」
「うん、北原、分かった。できるだけ早めに話すよ」
カラオケどころじゃなくなっちゃったけど、僕の一番大事なことは麻美のこと、それだけは間違いない。




