世界線
「君……君の瞳に乾杯っていうやつですか?」
ひとつひとつ結構マジメに取り組んでる。古川さんを待ってる間、次の難題に取り掛かる。
「それただのキザな人」
「まあなんか、さすがにいなそうですよね」
そんなのをもし竹内が言ったら「君の瞳に乾杯キラリ!」うん、生理的に無理っていうか、あっち行けっていうか、とりあえず殴るっていうか。
「いた!」
「……マ?」
「白いスーツ着てた」
「白いスーツ?」
「ウインクしてた」
「ウインク?」
「靴、エナメルでなんか光ってた」
「エナメル?」
似合わない人がおれ似合ってるんだぜってやろうとするから変で、似合う人がさりげなく使うからいいとのこと。
似合う人ってどんな人? とりあえパス!
それとね、なんて言って両手の人差し指を僕の頬に当ててくる。
「こことここ、口角をちょっと上げるのを常に意識しとくの。こう、ね」
こう、なんて言いながら微笑む笑顔。そんなの意識しなくても笑顔になるのは必然で。
「こうして口角上げとけば、自分が落ち込んでても周りからバレづらいからね」
そうこうしてる内に、古川さんが女性を2人連れて部屋に来た。「よろしくー」「任せて」なんて愛内さんとおしゃべりする姿は、ここだけ東京って感じでなんか最先端っていうか、オシャレでカッコイイ。
「ヘアスタリスト担当の溝口さんと、メイク担当の横山さん。2人とも愛内さんの専属。とりあえず今のうちは葉山くんのこともお願いしてるから」
車の中で紹介される2人。最近の生活でなんかいろいろと感覚がマヒしてるんだけど、愛内さんは日本の歌姫で、それを担当するって超プロってことなんだろう。
「ていうかさ、けっこうかわいくない?」
「思った。葉山くんって彼女いるの?」
「あ、マリ、さっそく本能が騒いでるって感じ?17歳ってまだ未成年」
「え、よくない? 今のうちにさ、ウフフ」
あれ、なんか違う。
「2人とも、葉山くんは愛内さんがもうツバつけてるからダメだよ」
「なーんだ」
「ハハ、マジで落ち込んでるの笑」
和田理容店?
市内から少し離れた一角、いわゆる街の床屋さんに到着した。店先には青と赤のくるくる回るやつがあって、臨時休業の文字がドアのノブに引っかかっている。
3人を見やる、古川さんの車はアルファロメオっていうシルバーの外車、比較するとなんていうか。
「オシャレなとこ想像したかな? こういう個人店は融通が効くんだよ。場所と設備があればプロはこっちに揃ってるからね」
融通ってお金だよね、今日は土曜日だし、臨時休業にしなくてもお客さんそれなりに来るよね?
この人たちいくら使ったんだろう。
ようこそなんて笑顔で迎えてくれたおじさんとおばさんは、まあ、よく街中で見かけるような垢抜けない、茨城に住んでるだろうおじさんとおばさんだ。
「葉山くん準備はいいかな。さあ、はじめよう!」
◇◇◇
「これが……おれ?」
マンガで見たやつだ、これがわたし? の男バージョンだ、孫にも衣装? ああ確かに、方向性はなんか王子様っぽい。横向いて、やっぱり鏡の中で同じく動いてる、やっぱりっていうかそうなんだけど、おれ?
「うん、いいね」
「やっぱりこういうの楽しいわ」
「全然イケルイケル! 葉山くん愛ちゃんと別れたらわたしと付き合わない?」
「マリ、まだ言ってるの?」
「ユーだってなんかニヤニヤしてるぢゃん!」
なんかしゃべってるけどほっとこう。髪はサラッとしてるっていうかこうサラッと、眉毛キリッていうか、化粧、メイク、マジでスゴイ、語彙が乏しい、だってオシャレなんて興味なかったし。
オシャレーー凄!
「僕……君……」
なんとなく呟いてみるけど、なんか似合いそうな気がする。スクールメイクは愛ちゃんにも教わってねなんて、当たり前だけど知ってたけど、周りの皆さん凄すぎ!
「この後は眼科寄った後にコンタクト選ぶよ。横山さん、彼用のメイク一式は用意してくれたかな?」
「大丈夫、あとで渡しとくね。葉山くんこれからデートしよっか」
「マリー!」
「え、ちょっと味見くらいしてみたくない?」
軽い冗談なんだろうけど、きっとこの人達には普通なんだろうけど、僕が変わって見られるのは僕なんだろうけど、ここ水戸の街の床屋さんなんだろうけど。
バージョン2.0の世界--
住んでる世界が今までとは違う世界線に書き換えられたよう。なんかそんな感じ。
「愛内さんの驚く顔が楽しみだね!」
◇◇◇
「……嘘?」
これも見たやつだ。確かプリティープリンセスで主人公が言ってた。「嘘じゃない、これが本当の君さ」「これが、本当のわたし?」これこれ! この後に確か抱き合って見つめ合って「王子様!」って。
「スゴーイ! なんかポックルジョニーとミスターMAXを足して3で割れない感じ!」
ポックルジョニー? ミスターMAX? だれですかそれは。3で割れない? そりゃ2を3で割ったら0.6666って3で割れないですけど、そしたらおれ1以下、いや、スゴイ言ってくれてるし、なんか喜んでくれてるし。
「どう、ですかね……」
なんて言いながらはにかんで照れる、はずだったんだけど照れどっかに行った。なんか思ってたのと違う。
「愛ちゃん葉山くんといつ別れるの?」
「マリ? いい加減諦めたら?」
「別れる気ないし」
なんか話しが勝手に進んでる。こういうのはほっとくのがいいって思う。
「ええマジで? 付き合ってるの?」
「え、どこまで進んでるとかあったり?」
「もう一緒に寝てる」
……いや、それはマズイ!
「えっと愛内さん?」
「あは、言っちゃった!」
「あはじゃなくて……」
「ええ、じゃあ葉山くんはわたしとのことなかったことにしたいの?」
「いや言い方!」
「あの日のこと忘れたいんだ……」
「じゃなくて……」




