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立つ前に

吉祥寺ーー




 その劇場は井の頭公園の東側、大きな通りに面していた。想像してたより大きくて、でも1,000席あるって聞いてたから納得した。

 送ってくれた五十嵐さんは、買い物したいということで別行動、変装だけして終わったら連絡することに。


 チケットはロキシー・エージェントのツテで1枚もらえた。ペアでなんて言われたけど平日の木曜日だし、行く人もいないので断った。


「わたしも観に行きたかったな」


 麻美は残念そうだっけど、ニューヨーク行く前にお仕事頑張らなくちゃって気合い入ってる。


 平日の昼間なのに長蛇の列。僕が僕って気づかれないまま列は進み、入り口でチケットを渡して指定された席に着いた。


 ストーリーは、現代に転生した三国志の英雄、劉備と曹操、孫権が仲間を集め結集し、それぞれが対立していく話し。

 それが転生なので女性だったり子どもだったり、おじいちゃんだったりおばちゃんだったり。ユーモアたっぷりの出会いからシリアスへの展開、それが想像以上に面白くて見入った。


 場面場面で切り替わる音楽は予想してたより秀逸で、協賛でロキシー・エージェントが入ってるって納得した。

 ここはこの効果音、麻美の曲、その大きさ、反響、全て計算されて客席に届いてる、そんな感じに聞こえてすごく勉強になった。


「曹操、たとえ女でも、我が殿劉備に向けた刃、決して許さぬぞ」

「お前は趙雲か、その槍わらわに届くかな」

「喰らえ!」


 ユウキが声を張り上げ立ち回る。演劇とか役者とか難しいことは分からないけど、ユウキが、精一杯の努力をしてることは感じられた。

 ユウキだけじゃない、劇団員の全員が、全力で、ひとつの劇というものを必死で作り上げようとしてる姿。


 来てよかった。


 沖縄で聞いたエイサーもそう、僕はまだ音楽の可能性を知らない。

 創り上げられた空間の、音と、動きと、感情が、本気でぶつかり合うとこうなんだって、観に来た側は期待し、その期待を上回れば感動が生まれる。


《オリンピックの100メートル走で、0.01秒世界記録を上回って優勝したら、みんな拍手喝采でしょ》


 それはそう、今は普通に楽しもう。




◇◇◇




「カズシ久しぶり、来てくれてありがとう!」

「ユウキお疲れ、すごくよかったよ!」


 花束とか持ってきた方がよかったのかなって聞いたら、気にしないでくれって言われてちょっと安心。


「楽屋で話そうぜ」

「僕が行ってもいいの?」

「ああ、気にすんなよ」


 通された楽屋では、演者の方々がそれぞれ会話を楽しんでる。みんな満足気に仲間と、友達と、親族と、メイクや衣装をそのままに、充実した時間を過ごしてる。

 白を基調とした趙雲のメイクが、カッコいいユウキによく似合う。


「ユキとはその後どうなの?」

「実は会えてないんだけどさ、毎日電話してる。今日も来る予定だったんだけどね」


 きっとこの中には、テレビに出るような役者さんもいるんだろう。見渡すと奥の方、麻美のコンサートの演出を手がけた中年の鈴木さんを見かけた。

 ああ見えて優秀なのよ、デラックスの言葉を思い出してなるほどって思った。


「カズシはニューヨークなんだろ?」

「うん、明日行く」

「負けないように頑張らないとな」

「お互いにね」


 ユウキがカズシ呼びしても全くバレる様子がない僕、もはや知名度の問題じゃないかと思う。


「あれれ、優希くん、友達でも呼んだの?」


 お仲間さん? 確かこの衣装は周瑜?


「あ、はい……」

「へえ、随分偉くなったね。お友達くんもさ、付き合い考えた方がいいよ」

「はい?」

「いやさ、『ゼンコイ』出たら出たで、レイラと演技対決してボロ負けしてんぢゃん。華月の面目が丸潰れなんだよね。まあ下っ端に興味ないし」


 周瑜は言うだけ言っていなくなった。


「気分悪くしてすまん」

「気にするなよ、ユウキの努力は僕がちゃんと見てる。ちょっと待ってて」


 席を離れて鈴木さんの元へ。多分ここを仕切ってるだろう人たちと席を囲んでる。


「鈴木さんお疲れ様です」

「えっと、だれだったかな?」


 ウィッグとメガネでこうもバレないとは。わざとらしくそれを取る。


「おお、葉山くんか。来てたのか!」

「はい!」


 同時に沸くどよめき、楽屋中の視線が僕に集まった。


「もしかして、神楽優希くんの応援に来たのかな?」

「そうです。演出、鈴木さんだったんですね」

「まあね、こういうの好きだから」

「ところで……」


 わざとらしく声を張る。


「ここロキシー・エージェントが協賛ですよね。もし愛内さんが辞めるって言ったらどうなるんですか?」

「これ自体がなくなるね」

「へえ、そうなんですか」


 すうっと視線を周瑜に移す。連環の計が得意な周瑜さんは、遠目で見てもビビってる。


「なにかあったかな?」

「いいえ、別に。ユウキ頑張ってたなって」

「彼には期待してるよ」


 きっと監督さんだろう優しそうな男性の声。


「だって。ユウキ、頑張れよ!」

「おう!」


 晴れやかなユウキの笑顔、ちょっとズルいかなって思ったけど、友達は守る。

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