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パスポートが出来た。日本国って書いてあって赤くてなんかカッコイイ。当たり前なんだけど、僕は日本人ですって国が認めてくれてるみたいだ。
ペラペラとめくると僕の顔写真が印刷されてて、きっとこの白紙のところにスタンプとか押されるんだろうって思うと楽しみ。
「だれかに自慢したい……」
そう思いながらカバンに入れた。
◇◇◇
「葉山まさか、へたっぴ隊長とのコラボをシリーズ化するとは思わなかった」
「え? なんで? 最高ぢゃん!」
「いやだってさ、どう考えても一発屋で終わるはずが、まさかの葉山とのコラボでブレイク、本人が一番ビックリしてるんじゃないか?」
「竹内、へたっぴ隊長のポテンシャルを甘く見てるな」
「みんなきっとそう思ってるぞ」
「マジ?」
「聞いてみたら?」
立ち上がって声を張ってみる。
「ねえごめん、みんなへたっぴ隊長スゲーおもしろいって思うよね?」
シーンと静まり帰る教室。
「あれえ……」
「な!」
「おかしい、罠か!」
「多分あれだな。子どものころピアノばっかりやってたから、今さらながら、ああいうのがおもしろくなってるっていうか、そんな感じ」
「ま、いっか」
「マジで次は世界?」
「おう!」
「……かわいそうに」
授業が始まると隣りに座ってる梶さんが、紙を小さく折ったのを渡して来た。受け取ると、またいつものメンバーで遊びに行きたいって書いてあった。
スマホに表示されて文字じゃなくて手書き、それが少し嬉しくて、ニヤけてるのバレないようにした。
読み終わって梶さん見たら目が合って、小さく何回か頷いたら笑顔を返してくれた。
どう考えても竹内に梶さんはもったいないと思う。
◇◇◇
放課後の生徒会では各部活の部長が集まって来年度の予算作り。と言っても、どこも特に目立った成績もないので、だいたい通年通り。
全国大会に出るとか、野球部が甲子園に行くとかない限りはそんなもんらしい。
「なあ葉山、Nスラッシュとは仲いい?」
「まだ話したことないよ」
「じゃあライジンは?」
「事務所でたまに会う」
「いいなあ。あとだれが仲いいの?」
「歌手だと藤原凛さん、ハルさん、RICKs、女優だと『ゼンコイ』出てた深川麗蘭と倉科悠かな」
「すごーい! じゃあ映画のさ……」
「あとへたっぴ隊長!」
「それはなんでも……」
「なんでだよ!」
「はい、そこまで!」
予算よりもそっちに興味があるのね。
「だってクラス違うから葉山と話す機会あんまないし」
「ふーん、じゃあサッカー部は予算なくていいんだ」
「すいませんでした」
梶さんを会長代行にした僕の人事は正しいと思う。
「じゃあ最後に1つ」
「ん?」
「ニューヨークでソフィア・ギャリックに会うってマジ?」
「うん、その予定」
「ソフィア・ギャリックが葉山とユニット組みたいって言ってるみたいだけど、やるの?」
……僕と?
「聞いてないし興味ない」
「そうか分かった。日本の歌姫から世界の歌姫に鞍替えするのかと思ってた」
「僕は愛内さんとしかやらないよ」
いろいろ噂はあるんだね。
◇◇◇
「アー、ベー、セー、デー、ウー、エフ、ジェー、アッシュ、イー、ジー、カー、エル、エム、エヌ」
フランス語、やればやったで楽しい。マリさんが会ったときに教えてくれるみたいだけど。
「アン、ドゥー、トロワ、キャトル、サンク、シット、セット、ユィット、ヌフ、ディス」
案外さ、こういうのはちょっと興味がある単語を調べると面白いんじゃない?
「Faire l'amour」
だいたい高2の思春期の想像なんてこんなもん。クラスのやつらと一緒だなって思うけど、でもいつもなんとなく流れでそうなるし、セックスしようなんて、面と向かって言ったら絶対に照れる。
次は何にしようかな。
「Je t'aime」
うわ、愛してるってフランス語だとこうなんだ。なんかエロいしブロンドの男性が確かに言ってそう。あれ、でもこれって確か……。
《Je t'aime》
パトリシアさんが言ってたやつ? 僕に? え? いや多分、僕のピアノを聴いてグリーズマンを思い出してとかそういうやつで、グリーズマン、いつまでも根に持ってやるからな!
「一志の声聞けて安心した」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「こっちこそ、一緒にいてあげれなくて」
「麻美、Je t'aime」
「あは、勉強してるんだ。進んでる?」
「パトリシアさんが言ってたことは分かった」
「え、ちょっ! それは覚えなくていいんじゃない?」
「覚えちゃったもんね」
「まあいいけどね。それに関してはけっこう自信あるし」
「ねえ年末の曲、『Lovin'』にしようと思うんだ」
「うん、いいよ」
「少しずつ始めるから、ニューヨークから帰ったら本格的に合わせよ」
「一志に任せるよ」




