完成
メインターゲットは女子中高生、なら目の前にいる現役の女子高生に聞いてみるのが一番早いと思う。
お昼食べてる黒艶ロングの梶さんと、ショートボブの川上さん。梶さんは竹内の元カノだけど竹内いないし大丈夫だろう。
「あのごめん、聞きたいことあるんだけど」
2人の顔が一斉にこっちを向いた。前なら多分緊張でもしてたと思う。けど愛内麻美という芸能人と毎日いる僕は、それほどでもなくなった。
「王子様ってどんなイメージかなって」
「カレーの話し?」
梶さんの答えにちょっと笑った。
「ううん、違う。本当の王子様」
なんでとキョトンとする顔、もっともな質問に「自由研究で」なんて言ったら笑ってくれた。
「憧れだよねえ、お城に住んでて白馬乗って、いつか迎えに来てくれるって子どものころ思ってたな」
「王子様、マント着て笑顔ヤバイ」
「分かる! で、お城の周りは堀に水あって、かかってる橋がロープで上がって」
「金髪で目が青」
「あと絶対に舞踏会だよねえ。優しくリードしてくれそうな」
もうおれが王子様になるのは無理なんじゃないんだろうか。織田信長カッコイイって思うけど、男の子と女の子が憧れる対象は違うんだろう、きっと。
でも、2人の顔は生き生きしてて少女に還ったみたいで、視線はこっちに向けた。
「葉山くん王子様になりたいの?」
「いやおれはさすがに」
「ピアノ上手いしワンチャン行けるんじゃない?」
竹内、今の彼女より梶さんの方が魅力的に映るぞ。
◇◇◇【愛内麻美視点】◇◇◇
「録音聴いたわ、悪かったわよ」
「わたしが東京来てから親みたいなもんだし、まあ親子ゲンカってことで」
デラ……思い出すとちょっと笑っちゃう。
「元々、麻美ちゃんにはずっと1人で頑張ってもらってたし、今回は自由って話しだったものね……」
男性? 女性? って確かに、あ、だめ、笑。
「まあ好きにやんなさい」
「ウッ、でも珍しいぢゃん、謝ってくるなんて」
「昔の知り合いから電話があったのよ。まさかあんた……」
「さーねー」
「まあいいわ。ところで彼にも謝っといてくれない?」
「それは自分で言ってよ」
「謝るってどうやるのよ……」
「思いっきり抱きしめてあげたら?」
自分で自分を追い込むスタイル。
「分かった。で……どうなの?」
「1位取る、歌姫に任せて!」
あとのことは全部こっちで、ウッ、そう言ってくれた社長は笑顔で笑顔、笑顔、ウッ、がまんがまん!
◇◇◇
「葉山くん例の資料、もらってきたよ!」
「山積みのこれ、やっぱりそうですか……」
「ねえ、この量すごくない?」
「……それで、これをどうしろと?」
「読むの!」
「おれがですか?」
「合計40分ね。少女マンガ、すっごく楽しいしおもしろいよ!」
「おれが……」
「50分」
懐かしいなあなんて言いながら『メルティードール』とか『フレンド・アイランド』とか、なんかいろいろ言ってる。王子様は実際には出てきたり出てこなかったり、でもだいたいモデルはそんな感じらしい。
「でも、お、僕読めますかね」
「55分ね」
「今のセーフじゃ?」
「だめー」なんて頬をふくらませる。
可愛っ。
今日用意してくれたのはポトフ。ポトフの味は知らないけど、すごく薄味にしてくれてるんじゃないかと思う。
「明日っておれなにするんですか?」
「髪切る」
「あ、なるほど。テレビ出るんですもんね。なら1000円でやってくれるところでも……」
「ねえ、王子様、忘れてない?」
「ああそうか、ところで出来ました」
「ん? なにが?」
「曲」
人参を潰しながら返事を待ったけど返ってこない。
「どうかしました?」
「……ほんとに?」
「はい」
潰した人参を口に運ぶ。ちょっと甘い。
「え? 早くない? いつやったの? 3分の方?」
「空いてる時間にイメトレで、両方ですね。でもちょっと思うところあるんですけど大丈夫です。明日から練習しません?」
「やるやる、絶対やる! ヤバ、涙出そう……」
◇◇◇
掴んだ腕を振り払う。
懇願する顔を睨め付ける。
極悪人? フン、好きに呼べばいい。
「今日も一緒に寝ようよお、昨日一緒に寝たぢゃん!」
「だからイヤですって。昨日は昨日で……」
「寝てる振りしておっぱいさわったくせに」
「してません!」




