1番
それはそうと1つ気になることがある。
「あのデ……社長、ちょっと質問いいですか?」
「なあに?」
「僕個人へのオファーですよね、わざわざロキシー・エージェント挟まなくても協会から直接話しがあるものなんじゃ……」
「ああそういうことね」
デラックスはため息吐いてイスに座り直した。
「餅は餅屋、こういうのはうちの方が慣れてるし得意なのよ。それに……」
「それに?」
「ここだけの話し、一志ちゃんはプロじゃない立場で協会に所属ってことが異例みたいで、周りとか立場とかいろいろめんどくさいからって、白河から頼まれてるのよね」
「なるほど」
「安心して、中間マージンはしっかり取ってるから」
「ガッツリ抜いちゃったください」
悪巧み中のマフィアみたいにニヤリと笑う僕とデラックス。
「スゴーイ!」
「ですね!」
麻美と五十嵐さんの甲高い声が割って入る。
「パトリシア・ブリュネってちょっと調べたけど、この子すごい女優さんぢゃん!」
「レイラと悠みたいな感じ?」
「んー、ちょっとレベルが違うかな。将来のアカデミー賞候補だって。この子と一志が並んで撮影ってそりゃ納得だわ」
麻美はなるほどなるほどなんてネットに目を配らせてる。
「それに超可愛い。え、この子人間?」
「麻美より可愛い子いないと思うけど」
「あは、もう一志ったら!」
「あんたらそういうのは家でやんなさい!」
2人はその後、ノルウェーのフィギュアスケート選手とアルゼンチンのスーパーモデルを特定したらしく、「スゴイ」「ヤバイ」「可愛い」を繰り返してた。
「アメリカの特権階級の令嬢だけは謎ね。でもこれは期待できそう」
「本物のお城のお姫様だったりして」
「あるかも。でもなんとなく、リコルルのやりたい事が見えて来た気がする」
「麻美、リコルルのやりたい事って?」
「多分なんだけど、本命は一志。一志と4人の美女、そんな構成かな」
すごそうな人たちを差し置いて僕が本命?
「さすがにさ……」
「一志が1番。世界中のだれが相手だって一志が1番だよ!」
「いやでも」
「音楽祭で本気を出さずに圧倒的な差を日本中に見せつけたよね、『ゼンコイ』で『記憶の場所』を軽く練習してその場の芸能人を含めて全員を泣かせたの忘れた? クラシック弾いてJーPOP界のワンツーのわたしと凛ちゃんを泣くほどビビらせてたのだれだっけ」
「……なんかごめんなさい」
「一志が1番なんだって!」
麻美の自信たっぷりの笑顔を見てるとこっちまで元気になってくる不思議。5つ歳上の姉さん女房、けっこういいなあなんて思う。
「ところで一志ちゃん、デってなに?」
「え、なんのことですか?」
「わたしのこと社長って呼ぶ前にデって言わなかった?」
「知りません」
「確か藤原凛と会ったときも……」
「気のせいです」
◇◇◇
葉山一志:ねえ、パトリシア・ブリュネっていう女優さん知ってる?
深川麗蘭:知ってるよ。『ドロシー』出てる人でしょ
倉科悠 :けっこう憧れてるよ
葉山一志:知ってるんだね
深川麗蘭:なんで?
葉山一志:お仕事で会う予定
倉科悠 :いいなあ。ん? ちょっと一志くん、日本人だけじゃなくて今度はフランス人も?
葉山一志:はい?
深川麗蘭:次から次へと全く。愛内さんとわたしと悠いればよくない?
葉山一志:うん、それは勘違いだよ。
◇◇◇
パトリシア・ブリュネ
フランス、ナント出身、地元愛の強い人気女優。24歳。小さい頃から芸能の世界に入り、いくつもの賞をなんとかかんとか。
アンネ・ヨハンソン
ノルウェーの19歳。オリンピック経験のある両親から英才教育を受け、バレエからフィギュアスケートへと転身しうんたらかんたら。
カタリーナ・ロメロ
アルゼンチンのどうのこうのの22歳。
調べれば調べるほど壁を感じるし、すごそうだし僕とは不釣り合いだし、ビビるからもういい。全員に会うかどうか知らないし、もうその時でいいよ。
アメリカの人はせめて庶民を感じる空気の人がいいけど、特権階級の令嬢、それ絶対に無理なやつ!
もうすぐ10月、秋の日差しが心地いい。窓の外からは別のクラスの体育の声が聞こえる。
ああ、国語の授業が眠い。
「葉山くん、生徒会長でも芸能人でも居眠りしていい理由にはならないからね」
「あ、すいません」
クスクス笑うクラスの女性に笑顔で手を振る。こういう仕草がもうなんか芸能人のクセっていうか、とりあえず笑顔で手を振っとけばいいみたいな……。




