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歌姫の全力の愛が僕を襲う!  作者: 長谷川瑛人
芸能界デビュー編
11/315

竹内淳

 自宅のマンションから水戸駅まではまっすぐ、通称エキナン通りを15分歩く。

 駅に近づくと時間帯がそうなんだろう、ほとんどが市内かその隣りの、よく見る制服の高校生たち。


 階段を上がって、2階のロータリーから南口の駅の構内へ、だからと言って電車を使うわけでもなく、そのまま北口へと向かう。

 他に道があるんだろうか、考えたこともないけど改札前は人いきれ、それを横目に階段を下がってバスの停留所に並ぶ。


 バスの中は同じ高校に向かう生徒で占領され、前に後ろに気を付けながら吊り革に15分、体重を預ける。

 たくさんの人、たくさんの音ーーその音の集合体はきっと、毎日違うだろうけど印象に残るものでもない。




◇◇◇




「あああぁぁぁあああぁぁぁあああ……」

「葉山、授業中だぞ」

「え、あ、すいません」


 クスクス、アハハ、クラスのみんなに笑われた。クソデカため息、思い出すだけで疲れる、なら思い出さなければいいんじゃね? いやいや印象が強すぎてさすがに無理ゲー、特に今朝のヒラヒラのあれ。


「葉山のクソデカため息、マジで笑った」

「かぶった」

「なにが?」

「いや……」


 お昼だしバッグの中の弁当を取り出す。


「で、どうかした?」

「聞いてくれよ、実はさ」


 昨日から愛内麻美と一緒に暮らし始めて……分かるよね……あはははは……言えるかあ!


「……なんでもない」

「まあいいけど。てか葉山、弁当?」

「うん、変?」

「変じゃないけど葉山が昼メシ食べんの見たことない。手作り? そうかとうとう葉山にも春が、てことはまさか童貞……」

「ちげーよ」

「じゃあだれが作ってくれたの?」


《お弁当作りなんて久しぶりで頑張っちゃった。美味しく出来てると嬉しいんだけど》


 ワカルヨネ?

 アハハハハ?


「……親?」

「お前に親いねーだろ」

「いや今いろいろ大変でさ、そういうことにしといてもらえると助かる」


 ねえ葉山くんなんて須藤さんが近付いてきた。昨日、いろいろあったけどあれ昨日だよな。フツーに話しかけてくる須藤さん、フツーじゃないんだろうけど話しかけてくれてよかったなって思った。


「なんの話し?」


 割って入る竹内に、死んだ魚の目を向ける須藤さん。


「竹内くんって葉山くんの唯一の汚点だよね」

「いきなりヒドくね?」


 両親が事故で亡くなったとき、かなり大きな事故で小学校中に広まった。マンションの最上階、15階を防音に改装できる程の資産家で、顔も広く噂もあっという間に伝播した。


 小学校の友だちはみんな優しくて人当たりもよく、おれに気遣って接してくれた記憶がある。


 けれどおれが拒絶したーー。


 特にイジメとかはなかったけど、友だちからの誘いを全て断り、元々が活発な子どもじゃなかったけれど、そういう態度を取れば教室から、輪から、カンタンに孤立する。


 いつも家でピアノ弾いてるらしい。


 多分みんな、おれとどう接していいのか分からなかったんだと思う。拒絶しといてすごく勝手な言い分で、たまにだけど、どうしようもなくだれかと接したい時がある。


 そんな時、必ず竹内がいた。


 小学、中学、高校、付かず離れず、近からず遠からず、どう言ったらいいんだろう、必要なときに必ずいるのが竹内だった。なにかするってわけじゃなくて、2言3言話すだけ。


 そんなに頭の回転がいいやつじゃないとは思うけど、なぜか必要な時に近くにいる存在。おかげで少しずつ少しずつ、今ですら友だちは多い方じゃないけれど、いわゆるフツーに話せるようになってきた。


 女癖が悪いくらいじゃ、自分のせいだし別にたいしたことはない。


「竹内はそんなにワルイやつじゃないと思うよ」

「でも女たらしは死んでも治らないって」

「確かに」

「葉山、お前フォローするつもりある?」




◇◇◇




 帰りに本屋に寄った。愛内さんが載ってる本あるかなって女性用ファッション誌のコーナーに向かう。けっこう人がいて、なんか気恥ずかしいなあなんて思ったけど、表紙にいた雑誌を手に取りすぐに離れる。

「愛ちゃん可愛い」「ねえ」背後から聞こえるその会話に心の中で深く頷く。


 表紙、探す手間が省けたなんて思いつつ、やっぱこの人すごいんだなって思う。まあ、会う前からすごいってのは知ってるけど身近になるとまたこうさ。


 LiLi


 少し離れてページをめくる。高校生向けとか大人向けとか、そういうのは分からないけど、ペラペラと何ページにも彼女はいて、笑ったり澄ましてたりしてる。

 やっぱり芸能人なんだなあって当たり前の感想、それ以外の特集とか、夏に向けて、とかには興味がないけど。


 おれが知ってる愛内さんの方が50倍可愛い!


 1冊買ったらいくら愛内さんに入るんだろう、難しいことは分からないけど、でもそれをレジに持って行く。

 保管場所どうしよう、本人には見られたくない、ベッドの下とかエロ本みたいでそういう扱いはなんかやだ。

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