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1 少年クリフ


「クリフ、お前には司祭としての才能は皆無。…このまま神殿にいても致し方なかろう。もう故郷へ帰るがいい」



 司祭見習いクリフ。

 彼は国の英雄であった聖騎士の父親に強く憧れ、15歳になった年に聖騎士候補生としてその訓練所の門を叩いた。


 しかしクリフには聖騎士としての能力が全く無かった。剣術も槍術も弓矢の才能も皆無。何より人を傷付ける事が怖かったのだ。


 それでもクリフは、聖騎士がダメなら司祭となって人々の役に立ちたいと願った。しかしクリフには司祭としての才能も全くなく、日々失敗を繰り返していたのだった。



「……聞こえなかったのかクリフ、お前は聖騎士にも司祭にもなれない役立たずなのだよ。大神殿は、お前の様な落ちこぼれが居ていい場所ではない」

 


 そう言い放った司祭ゴードンは「もう目の前から消えろ」と言わんばかりに、クリフに退室を求めるような言動と素振りを見せた。


 2人の周辺にいた他の司祭達からは失笑が漏れる。彼らも英雄の息子という理由でクリフの扱いにはほとほと困っていたのだった。

 その為、ゴードン司祭の歯に衣着せぬ物言いに、彼らは胸がすっとする思いであったのだ。



 ゴードン司祭の言葉に意気消沈したクリフは、執務室を退室するとふらふらと歩き続けて、いつの間にか大神殿の中にある大聖堂に来ていた。


 クリフは大聖堂の床に膝を付き、この王国で至高神とされている「慈愛母神マレイヤ」に祈った。



「…慈愛母神マレイヤ様、僕はあなたの為に働きたかった! ……なのにどうして僕に力を与えてくださらないのですか…!」



 もちろん至高神からの返答は無い。

 そしてクリフは、父オルソンの事を思った。



「……父さん、僕には聖騎士としても司祭としても才能が無かったよ。…でも、僕はそれでも父さんの様に神殿に仕えて、多くの人の役に立ちたかったんだ……」



 クリフは泣いていた。

 3年前に戦死してしまった父オルソンを思い出し、涙が止まらなくなっていた。





───3日後、その大事件は起きた。



 クリフはゴードン司祭に言われた通り、大神殿内にある宿舎で自分の荷物をまとめていた。

 しかしクリフは荷物をまとめながらも、慈愛母神マレイヤに仕える事を諦めきれないでいたのだった。

 

 

 クリフのいる大神殿。

 それは広大な敷地に3年前から大規模な建設が進めれ、今春にようやく完成された巨大な神殿である。


 そこは至高神──慈愛母神マレイヤを崇拝し儀式を執り行う80名を超える司祭や修道女、そして彼らの代表であり最高司祭とされる「司教」が在籍する。


 また同じく慈愛母神マレイヤを崇拝し、国防や国内の治安維持の役割がある聖騎士団総勢50名以上も常に駐屯していた。




 その大神殿の中でも、修道女らの朝は特別に早い。

 彼女らは起床後すぐに身支度を整えると、朝食前には神殿の大聖堂に向かい、祭壇に季節の花を供え祈りを捧げる決まり事がある。



 この日の当番であった若き修道女も、献花と祈りを捧げようと大聖堂にやって来た。そして、大聖堂の高い吹き抜けの奥にあるステンドグラスから入る朝日に気分を良くし、祭壇に向かい歩いていった。


 そして彼女は絶句した。



――神聖なる祭壇にあってはならない特別異質な物。



 それは聖騎士の兜を被った「2つの首」であった。



 若い修道女は絶句したまま腰を抜かし、やがて全身を震わせながら大聖堂中に響き渡る大きな叫び声を上げたのだった。



 その直後、この事件はすぐに大神殿中に知れ渡り、司教であるリアムスと聖騎士団長を務めるウォルグがすぐに大聖堂に駆け付けた。その2人の後に続き司祭や聖騎士らも続々と大聖堂に入る。


「…バ、バカな、この2人は我が同胞、…6聖剣の2人」


 ウォルグは祭壇上の無残な姿になってしまった同胞を、まさに信じられないという眼差しで見ていた。



──3年前の大罪者達は、7日以内に死霊によって闇に葬られる──



 祭壇上の首の横に置かれた羊皮紙には、2人の血で書かれたであろうメッセージが残っていたのだった。




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