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第18話 んん!? 私の勘が何かを告げた……ような

「どうしたの、急に」


 私の改まった雰囲気にアンリも気付いたのか、彼は飲みかけていた紅茶のカップを置いた。


 彼の目の前に出されているデザートのケーキは手付かず。アンリは今日もデザートを食べないんだな。甘い物が特別苦手という感じはないのだけど。

 なんてことを私は逃避気味に思った。


「私の魔法のことを黙っててもらう代わりに、事件の調査の手伝いをするって話だったでしょう? そして解決できたら私のパトロンになってくれるって」

「ああ、そうだね」

「事件の調査は続けるけど、少し手伝いの方法を変えてはどうかと思うの。今はほら、頻繁に報告し合ってこうやって一緒にお喋りしてるじゃない? それは私があなたのウィンクルムってことも関係しているでしょうけど、それを変えてみるのはどうかというか」

「それはつまり?」


 ちょっとだけ、アンリの声のトーンが落ちた。続く言葉に察しがついたのかも。

 彼を落ち込ませたいわけじゃない。彼が善意で私をウィンクルムにしてくれたのはわかってるし、私だって一緒にいるのは楽しい。でも。

 私は彼から目を逸らすように俯き、自分の胸元に結ばれている青色のネクタイを触りながら見つめる。


「ネクタイを返して、普通の生徒と生徒会長って形に戻るのはどうかなって考えてる」

「僕のウィンクルムをやめたいと」

「そう、なるかな。だけど裏で連携を取ることはできるし――」

「……その場合、事件解決の報酬であるパトロンの話はなしだよ、って言ったら?」


 え、それは惜しい……。

 私はぎゅっと自分のネクタイを握った。

 惜しいけど!


「仕方ない……」


 下手に事件を起こすよりは。

 彼を変な事件に巻き込むよりは……。

 そろそろと顔を上げると優しい微笑みを浮かべた彼と目が合う。だけど、まっすぐこちらに向ける視線があまりに強くて私は固まった。


「もしかして僕の他に誰かパトロンの宛てができた?」

「で、できてない! 最初は親戚にお金を借りて、とにかく演奏旅行を始めようって思っていて」

「“最初は”?」

「旅行先でパトロンになってくれる人を見つけられたらいいなと……」


 なんとか物好きを探すしかない。お金だけ出して、私との交流は大して望まない、ただ演奏会が成功すれば喜んでくれるような奇特な人。

 頑張って探してようやく見つけたのがガーランド子爵だったから、なかなか出会えないとは思うけど。

 そういったことを、しどろもどろになりながら説明した。


「見つけるのが難しいなら、なおさら僕がパトロンになればいい。駄目なの? なにか嫌になった?」

「だ、だめとか嫌とか思うわけないでしょ。そりゃあ、なってくれたら嬉しいわ。だけど」

「だけど?」

「だって私とあなたの距離が近いと、誤解して何かしでかす人も万が一にでもいるかもしれないから……!」


 言うつもりなかったけど、言ってしまった。

 アンリが小さく「なるほど」とこぼす。緊張していた空気が少し緩んだ気がした。


「リサはそれが怖いのか」

「怖いというか心配というか――」

「ああ、僕のことも心配してくれたんだ」


 まったく察しがいい。そんなストレートに聞かれるとちょっとむずむずするけど、まあその通りです。


「最初からそう言ってくれればいいのに。じゃあ条件を変えるよ。新しい条件は、夏までに事件を解決するか、夏まで僕のウィンクルムを続けるか。それならいいんじゃないかな」

「え……」

「どうしたの。嬉しくない?」

「さすがに私に都合がよすぎるでしょ」


 喜ぶより先に怪訝な顔をしてしまう。さすがに。


「別に君にばっかり都合がいいわけじゃないよ。遠慮なんてしなくていい」

「いやあ、そうは言われてもそこまでしてもらうわけには」

「でも僕が君を手放すなんてありえない」


 ……んん?

 彼はただ穏やかに優しく告げただけだけど――。


「君がここを出て演奏家として活躍するときのパトロンは僕。いい?」

「あ、はい」


 それは条件反射みたいなもので、私の経験からくる勘がとにかく素直に頷いておけと主張した。

 ……え? 今のなに?

 困惑する私をよそに、アンリは完全に元の様子に戻って紅茶を飲み始めている。

 確かめるように彼を見つめるけどなにも掴めない。本当になんだったの?


「あ、あの……アンリ様……。お話をいいでしょうか!」


 突然の声に振り向くと、少し離れた場所に覚悟を決めたような表情の男子生徒が立っていた。

 ああ、これはきっと……。

 アンリに『祝福』を望むのは男も女も関係ない。彼に心酔した者なら誰でもそう望む。


「じゃあ私、そろそろ行きますね! アンリ様、ごちそうさまでした」

「リサ――」


 さっさと立ち上がってテーブルから離れる。

 ばたばたしてアンリには悪いけど、彼に『祝福』を貰いたい相手に恨まれるのは勘弁したい。少しでも何かが起こる可能性は下げておきたいのだ。

 振り向かずに早足で階段を降りる。

 周囲の目もあったから、そのまま私は廊下へと逃げた。ずんずん進んで、人気がなくなってから、ようやく一息つく。


「やっぱり理解しがたいな、あれだけは……」

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