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政府に財源はない

MMTが雇用保障政策を提唱していて、その財源については心配する必要がないと考えていることは前に書いた。

政府にはほんらい予算的な制約がなく、制度として国債を発行しているためにそのように見えているだけであり、国債は借金ではないし、税金も収入ではないというのがMMTの見解である。

だがそう言われてもピンとこない人の方が多いだろう。したがってここからは、MMTがなぜそう考えるのか見ていくことにする。


経済に興味がある人たちは、通貨(お金)が発行者にとって負債と言う扱いであることは知っていると思う。


たとえば1000円札や1万円札などの紙幣は発行者の日本銀行にとっては負債であり、会計書類の一つ、バランスシート(貸借対照表)では負債の項目に分類されている。

日銀当座預金も同様に日銀にとっては負債だ。


信用創造のところで出てきた銀行預金は"預金通貨"という民間銀行が発行する通貨の一種であるが、これも銀行にとっては負債である。

このほかにも小切手や社債など通貨性を持つものは発行者にとっての負債として扱われる。


現在の制度上通貨が負債であるのは認めるとして、なぜ負債なのかについては専門家でも意見が分かれる部分ではあるのだが、MMTは通貨の起源に一定の根拠を求めているようだ。

簡単に説明しよう。


一般的には通貨、お金は物々交換の不便を解消するために発生したと説明するが、MMTではそうではなく、古来から取引は物々交換ではなく"ツケ"、つまり貸し借りによって発展してきたと考えている。

AさんがBさんから何かを受け取る時、代わりに渡せる等価物がなければ、AさんはBさんに受け取るものに応じた借り(負債)を負う。

Aさんはその借りを返す必要が生じるが、それはBさんのAさんに対する借りで相殺してもいいし、あるいはCさんのAさんに対する借りをBさんが代わりに受け取ることでも解消する。


取引者が増えれば増えるほど貸し借りの関係が複雑になる。そのため貸し借りの関係を記録する必要が出てくるのだが、それが形を持ったのがお金であり、やがて権力者が登場し、強制力によって単位を統一したのが通貨である、というように説明される。

ちなみに英語圏では I owe you という言葉があり、これは「あなたに借りがある」くらいの意味だが、IOU と略すと「借用書」だ。


このようにMMTにおいて通貨は貸し借りという「社会的な関係性」から始まったと考えているので、通貨が負債であることは自明なのである。


さて、通貨が負債であることはわかった。

ならば通貨発行者は通貨を発行するたびに負債が増えるのだろうか。その負債はいわゆる借金なのだろうか。

次はそれを見ていこう。



・ケースA 政府が直接通貨を発行する場合

まず分かりやすく一番単純なケースを考えよう。

このケースでは政府と国民しか存在せず、したがって中央銀行も民間銀行もない。

この場合、政府が通貨を発行するのは国民に対して支払いをする時だけである。銀行がないので信用創造もなく、お金の貸し借りでも通貨の量に変化は生じない。


ここでもっとも重要なのは、政府が通貨発行をする社会では政府は通貨を所有できないし、借金もできないということである。

通貨は政府が発行した時、つまり民間に手渡したときに増加する。したがって政府が通貨を保有することは不可能である。

これは通貨が政府の負債であることからも必然だ。通貨は政府の通貨保有者に対する負債なのだから、政府が通貨保有者ならば自分自身に対する負債が成立することになってしまう。

当然そんなことはあり得ない。


前述のように政府は支払によって通貨を発行するが、通貨が負債である以上、支払いに応じて負債も増加する。

ただし政府が借金できない以上、その負債は借金ではないことになる。

MMTによれば、通貨は"借り"であった。つまり政府が通貨発行によって購入した物やサービスと同価値の借りである。しかし政府は生産を行う主体ではないため、物々交換によって借りを相殺することができない。

正確には通貨で購入した物で返済は可能だが、通貨の保有者はそれを望まない。通貨は取引のために必要なので、保有者としても物で返されても困るわけである。

通貨は、返済を望まれないという奇妙な負債なのだ。

通貨で返済もできない、かといって物々交換もできないとなると、政府には負債を消滅させる手段がなくなってしまう。


そこで徴税である。

政府は徴税行為によって、国民に税金(納税義務)という負債を強制的に負わせることができる。

納税によって通貨を受け取り、納税義務と通貨という負債同士で相殺する。それによって政府は通貨という自分の負債を解消するというわけだ。


「税金は政府の収入ではない」とMMTが繰り返すのには、こういった理由がある。

MMTからすると、政府の歳出(支払い)は負債を増加させる行為であり、徴税はそれによって発生した負債を消滅させる唯一の手段なのである。

だから一部の人が言うような「MMTは無税国家を認めている」という主張は明らかな間違いと言うことができる。


ここまでをまとめると次のようになる。

・政府が直接通貨を発行するとき、それによって生まれた負債は借金ではない。元々返済方法が存在せず、したがって「返済不能になる」こともない。

・徴税は政府の負債を消滅させる唯一の手段であり、収入ではない。


これは最初に述べたMMTの主張「政府は破綻しない」「税収は収入ではない」を裏付けるものであるが、あくまで政府自身が通貨を発行する場合の話である。

それでは次に、もう少し現実に近づけたケースを考えてみよう。



・ケースB 中央銀行が通貨を発行する場合

このケースでは政府と国民のほかに、中央銀行が存在する。民間銀行は存在しない。

通貨を発行するのは政府ではなく中央銀行となり、政府は国債ではない負債を発行して通貨を手に入れることになる。政府は通貨発行者ではないため、負債は一般的な意味での借金であると言える。

この場合、政府は通貨発行によって財政破綻するだろうか。

MMTは財政破綻しないし、本質的にはケースAと変わらないと考えている。なぜだろうか。


ケースBでの通貨発行プロセスは以下のようになる。

まず政府が通貨発行額と同額の負債を、中央銀行に対して渡す。中央銀行はそれを受け取ると、中央銀行にある政府口座に発行した通貨を入金する。

このように、通貨発行によって政府が負債を負うのは中央銀行に対してである。国民に対してではない。

国民に対して負債を負うのは通貨発行者である中央銀行である。そしてケースAで見たように、通貨発行者である中央銀行が通貨発行によって生じた負債によって破綻することはない。

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