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誤解だらけのMMT

MMT(現代貨幣理論)の解説は、9割くらいが間違いに満ちている。TwitterやYoutubeはもちろん、なろうのエッセイでも「あなたそれちゃんと調べて書いてる?」みたいなのばかりだ。

ネットでのMMTブームも一段落したようなので、自分の半可通さを顧みずいまさらだがMMTについて解説する。


MMTはけっきょくの所、いったい何を言いたいのか?


Twitterだと、よく「MMTは現実を説明してるだけ」みたいなことを言う人がいるが、もちろんそんなことはない。もしそうだとしたらそれは経済学ではない。

さて、MMTの主な主張は次のようになる。


1.政府は"最後の雇い手"として希望者を全員直接雇用するべきである。そうすることによって本当の意味での完全雇用が実現できる。


2.政府は"景気対策"を行うべきではない。それはほとんどの場合逆効果だからだ。


3.国債は廃止すべきである。理由は不要だからだ。また金融業界の規制をもっと強化すべきである。金融は本質的に不安定であり、その自由化は多くの国民にとって害にしかならないからである。


こうしてみると主張はかなりシンプルであることが分かる。

ではその主張を1つ1つ見ていくことにしよう。



1.政府は"最後の雇い手"として希望者を全員直接雇用するべきである。


MMTではこれを政府による雇用保障政策(Job Guarantee Program、JGP)と呼ぶ。

従来の標準的な経済学では、本当の意味での完全雇用は不可能とされている。失業を解消しようとして政府が財政・金融政策を行うと、ある時点でインフレが発生し、そこからはインフレのみが加速していき経済政策では解決が不可能になる。そのある時点での失業率を"インフレ非加速的失業率"と言う。


これは政府が被雇用者ではなく、企業に対する間接的な支出によって雇用を実現しようとする限りは避けられない限界である。雇用するかどうかは企業の判断であり強制はできないからだ。


だがMMTは、これをまやかしであり、政府の怠慢であると批判する。

なぜなら政府は、失業者を直接雇用することで完全雇用を簡単に実現できるからである。しかもそこまでいっても雇われない人たちは、経済的社会的な弱者であろうと推測される。それを放置すべきではないというわけだ。

またJGPは単に失業者の救済策と言うだけでなく、人材のプールとしても機能する。

不景気で失業者が生まれると、JGPがそれを吸収する。それによって民間の消費支出減少がいくらか抑えられる。

逆に好景気になれば労働者はより高い賃金を求めて民間に移動するだろう。それによって賃金上昇が抑制されることになる。


こう聞くと、よい政策にも思える。

問題は財源である。

失業者を全員雇用しようとするなら、かなりの政府支出が必要になる。そのための財源はどこから来るのだろうか。


ここで初期にMMTとセットでよく語られた「政府は国債をどれだけ発行しても財政破綻することはない」という言葉が出てくるのである。

よくこれは「だから政府はもっと景気対策をすべきだ」という主張の根拠として使われるが、MMTではそのような主張はしない。あくまで雇用保障政策に対する「財源はどうする」という批判へのアンサーなのである。



2.政府は"景気対策"を行うべきではない。


政府は財政破綻しない論への批判として多いのが、「財政破綻はしなくてもインフレが加速してしまうからMMTは成り立たない」というものだ。

これは従来型の景気対策に対しては正しい指摘である。増税や歳出削減ではインフレ率の変化には対応できないし、インフレ率だけでは需給の状態を把握することは難しい。議論している間に政策を打つタイミングは過ぎてしまうだろう。結果として逆効果になることも多い。


したがってMMTでは景気対策を否定している。

政府がやるべきなのは、雇用の保障やインフラ整備、防衛といった利益が出ないために民間がやらないことであり、景気を良くするために支出を増やしたり金利を下げることではない、と言うのがMMTのスタンスである。


ではJGPさえ実現すればインフレの加速は起こらないのか。

そうではない。

MMTではインフレは様々な要因で発生するものであり、単純にコントロールできるとは考えていない。

一時期グリーンスパンFRB議長が"マエストロ"と呼ばれ称賛され、インフレはもはや克服されたとも言われた。しかし現状はご覧のとおりである。

雇用保障や課税の累進強化によって景気の波はいくらか緩和できるであろう、ただしなくなるわけではないし、少なくとも役に立たない景気対策で悪化させることはすべきではない、とMMTは考えている。



3.国債は廃止すべきである。


「政府は国債をどれだけ発行しても財政破綻することはない」ということと一見矛盾するようだが、実は矛盾していないのがこの主張である。

「政府は国債をどれだけ~」を言いなおせば、「政府は自己宛ての負債をどれだけ発行しても返済不能に陥ることはない」となる。

国債とは政府の債務を証券化したものである。つまり国債をわざわざ発行せずとも政府が中央銀行に持つ預金口座のマイナスを増やせば済む話であり、現在の様に国債保有者にリスクゼロの所得を保証するべきではないというわけである。


金融規制に関しては、自由化する一方で金融危機が起こるたびに巨大資本を救うのは、投資家のモラルを破壊して負債を一般国民に背負わせるものと批判している。

これは投資は自己責任というレベルの話ではなく、野放図に拡大する投資によって資源配分が歪む、早い話バブルを生む温床になるからということだ。バブルの恐ろしさは皆が知るところだろう。




以上がごく簡単なMMTの解説である。

気が向いたら「MMTが考える貨幣の本質」やそこから導き出される「MMT的な視点では国債も税収も本質的には政府の収入ではない」と言うことの意味を書くかもしれない。

最近よく見かけるようになった「国債も税収も本質的には政府の収入ではない」という主張はかなり誤解が多く、そもそもそれだけ聞くと、なぜそのような主張をするのかもわからない。言っている人達も多くはよくわかっていないようだ。


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