嘘を本当にする魔法
「わしゃ本当に嘘を本当にする魔法が使えるんじゃあ」
土管の中にお爺さんの怒声が響き渡る。ああ頭がぐわんぐわんする。やめてくださいおじいちゃん、血圧も高くなるし怒らないで落ち着いて。と、慌ててお爺さんを宥める私とノワ。いかにも私はマジシャンですと言いたげな格好をしているこのお爺さんはノワの知り合いのお爺さん。もう何年も前から、自分は嘘を本当にする魔法が使えると言って聞かず周囲の人を困らせているので、知り合いの知り合いからノワにヘルプが飛んできたのだそうだ。ノワも大変だなあ。普段は誰かしら困っている人や困った人を使い魔のパンプが連れてくるし、知り合いから魔女であることをいいことに面倒ごとを頼まれやすいのだとか。それも本人はなんだか楽しそうに、誇らしそうに取り組んでいるので健気な少女だな、とも思う。ちょっと見習いたい。
「何苦笑いしてるんじゃ貴様っ、でてけっ」
「いたっ、杖で叩かないでください、発泡スチロールでできてるから全然痛くないですけど」
「お爺さん、落ち着いてください。魔法をかけますよ」
ノワの割とマジな脅し文句にお爺さんがぐむむと黙り込む。助かった。ちょっと微笑みを浮かべただけで叩いてくる人怖すぎる。コミュ障じゃん。ノワさんありがとう。
「それでお爺さんはどのようなご相談なんでしょうか」
ノワが本題を問う。最初にお爺さんが公園に来て私とノワと会ってからというもののずっとこの調子だったのでいやはやようやく話が前に進む。
「わしはな、もう追い先短い。だから自分がいつ、何の嘘を本当にしてきたのか振り返りたいんじゃ」
「ご自身では覚えてらっしゃらないんですか?」
「覚えてたらこんな土管の中になんて入らんわいっ」
「いたっ、なんで叩くんですか、私関係ないし全然痛くないし」
「でも、私はそういう魔法は使えませんし」
「過去さんのところに行きましょうよノワ。ご自身で確認していただくのが一番いいじゃないですか」
「あ、それもそうですね」
ということでお爺さんを過去さんのいるカフェに連れて行った。
「いらっしゃい、どうぞなかへ」
カフェに着くと赤いロングヘアーに白のブラウス、黒のロングスカートという出立ちの清楚な雰囲気のお姉さん、過去さんが出迎えてくれた。
「こんにちは過去さん、今日もよろしくお願いします」
私とノワはぺこりと頭を下げて中に入る。お爺さんはすでに中に入って席に座っている。あまり人の話を聞かないお爺さんだ。
「先に上がってて、すぐに行くから」
「はい、ご苦労かけます」
そんなこんなで私たちは変身さんの時と同じ部屋に案内され、過去さんが望遠鏡をセッティングしてくれて、いざ過去を見せる魔法をお爺さんが使わしてもらったのだった。
「九歳より前の過去が見れなかった、ですか」
過去さんが信じられないことを口にするように言った。過去さん曰く、過去を見せる魔法は、本人が望むどんな自身の過去を見ることができるとのことで、見れないということはつまり過去がない、本人が経験していない、ということになるのだそう。え、それってどういうこと。
「つまりお爺さんは九歳より前にはこの世に存在していなかったということだと思います」
ノワが澱みなく簡潔にまとめる。驚きとかないのだろうか。魔女だから慣れているのだろうか。
「じゃあお爺さんはどのように生まれたんですか? それも魔法ですか?」
魔法によって嘘を本当にする存在を生み出す魔法、いや、なんか違うか。
「これはあくまで推測に過ぎませんが……おそらくお爺さんは、嘘を本当にする魔法によって、実在していた人物の身代わりとなったのではないでしょうか」
「じゃあご両親はどうしてお爺さんに、あなたは嘘を本当にできる魔法が使える、だなんて言っていたのでしょうか」
「それは分かりません、でも、そういうことにしておいた方がいい何かがあったのではないかと思います。魔法使いは差別や迫害を受けます。でもそれ以上に都合のいい何かがあったということだと思います」
ノワが遠慮なく口にすることは、本当だとしたらなかなかヘビーな過去があったということになるけれど、お爺さんはさっきからダンマリで、何か思うところがあるような表情を浮かべていた。
過去さんのカフェから公園に帰ってきて、お爺さんと別れる間際のこと。お爺さん曰く、両親はいつも自分に何かを隠していて、何かを言いたそうにしていたそうだ。だからさっきのノワの話には幾らかの信憑性を感じる、とのこと。私とノワはそれを聞いて何も言えず、ただお爺さんが去っていく後ろ姿を見つめることしかできなかった。




