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私と魔法の話  作者: Chiot(シオ)
私と魔法と日常の話
6/25

本当の気持ち

 遊園地に行った日から一週間、私たち三人は再びロータリーの妖精と化していた。目的は変身さんの理想の姿を見つけるため。本当の自分に戻る方法がない以上、一番いい選択肢だと、変身さんも納得してくれたし、案外楽しそうにしているので、私とノワもノリノリになって変身さんに変身させている。しかしお気に入りの姿は山ほど見つかっても、理想の姿となるとなかなか見つからない。どこかで妥協しなければいけない気配が漂ってきている。何回かお巡りさんに職質されたし、そろそろね、場所を変えるなりなんなりしないといけなくなった。けれどなんとなく場所の問題ではなく、もっと根本的な問題があるような気がしてならなかった。それをどう二人に伝えようか迷っていた時のことだった。誰かがいきなり耳元で「お兄さんを探しましょう」と言った。それは変身さんでもノワでもなく、中学生くらいの背丈の女の子だった。

「ど、どなた様でしょうか」

 私は人見知りなので、図星をつかれてもまずは誰何を忘れなかった。

「私は祈りを聞く魔法です。ノワに呼ばれてきました。よろしくお願いします」

 そう言って少し頭を傾けて微笑んだ少女に、ノワが気付いた。

「祈りさん、こんにちは。今日はきてくれてありがとうございます」

「いいの、私は祈りを聞く魔法だから」

 なんだか話し方がぼんやりしている少女にノワが駆け寄って手を取る。それに少し気後れする感じで少女、祈りさんが答えた。それにしても、

「どうして祈りさん、を呼んだんですか?」

 私は率直な疑問を口にする。変身さんも首を傾げている。ノワが答える。

「そろそろ根本的な問題に立ち入ったほうがいいかもしれないと思ったからです。変身さんの理想とはなんなのか。それはつまり、変身さん自身が真に望んでいることだと思います。今日はそれを明確にするために祈りさんをお呼びしました」

 なるほど、とノワと考えていることが大体同じだったことに感動してしまう私。確かにその目的なら祈りさんは適任中の適任かもしれない。でも、

「祈りを聞くってどういう意味なんですか?」

 まずはそれを聞きたかった。そもそも祈りってなんだろう。無宗教の私からすると、心細い夜道を徘徊する時なんかにひたすら何かに祈っているような気がするけれど、そういう感じ、と言っても他人には伝わらないかもしれないけれど、そういう感じなのだろうか。そう思っていると、またもや祈りさんが耳元にやってきて、そういうこと、と囁いた。なんだかいけない秘密を交換したような気になってドギマギしてしまう私をよそに、祈りさんはすすっとノワのそばに戻っていく。そういうことらしい。

「祈りさんは他人の祈りを聞く魔法を使えるんです。その人が無意識に祈っていることでも、祈りさんにははっきりと聞こえるそうです」

 ひえ、プライバシーもへったくれもない、というか恥ずかしい、今すぐこの子から離れなければ。そう思って踵を返そうとすると目の前に祈りさんがおり、これは敵わないと思って諦めた。ちょっと怖い、でもなんだかすごく可愛い見た目をしておるので強く抵抗できない。無敵か?

「僕、自分でも自分自身が何を望んでいるのか、時々わからなくなる時があるってノワさんに相談したことがあるんです」

 ああ、それで。変身さんも祈りさんのことを知っていたようだった。私だけが知らなかった。ハブられた。なぜだ。助手じゃなかったのか。

「今日はよろしくお願いします。祈りさん」

 変身さんが祈りさんに頭を下げる。なかなか深刻そうに聞こえる悩みを吐露してくれたけど、これからどうするんだろう。例えば沖縄に行って焼き芋屋になりたいとか祈っていたら本当にそうするつもりなのだろうか。いや、それは考えるだけ杞憂か。とりあえず祈りさんの診断を待ちましょう。

「大丈夫、安心して。もうさっきからずっと聞こえているから」

「それじゃあつまり」

「お兄さんを探したい。お兄さんに会いたい。本当の自分?よりもそっちの祈りの方が大きいみたい」

 祈りさんが相変わらず囁くように教えてくれる。それに対して変身さんの反応はというと、驚いたり納得がいっていなかったりといった様子はなく、ただただ真顔で頷くだけだった。なんだ、言ってくれたらよかったのに。

「探しましょう、お兄さんのこと。ちょうどさっきから向こうの方からやってきてくれている人たちにも相談しましょう」

「……いや、それは、お気持ちだけで、十分です」

「なんでですか? 探すだけならタダじゃないですか」

 時間とお金がどれほどかかかるけれど。

「見つからなかった時のこと、あるいはもっと他の結末があったら、僕は耐えられそうにありません。だから今回、僕はノワさんに相談しにきたんです。本当の自分を探して、本当の自分になって、兄さんに自分自身の姿で向き合いたいと思ったから」

 でも、それはもう。

「分かりました。やはり無理な相談をしてしまったみたいです。すみま」

「S(私)になりたい、ですよね」

 え?

 変身さんが言い終わる直前、祈りさんが言った。私になりたい。それはえっと、つまりえっと、変身さんは私になりたいってこと?

「な、なな、なんてこと、そんなはずありませんっ」

 なぜか慌てて否定する変身さん。肯定の意じゃん……。祈りさんも意地悪だ。ノワのそばでくすくす笑っている。

「なんで私なんかに、って聞いてもいいですか、変身さん」

「う、ま、まあ、その、自由そうでいいなって思ったんです。始めて会った日に、少し後をつけさせていただいたので」

「ストーカーじゃん、おまわりさーん」

「いや、違うんですっ。他意はないんです本当です!」

「否定すればするほど怪しくなりますよ」

 そういえば初めて変身さんに会ったとき、やけに上機嫌だったような気がしてきた。自由を謳歌していそうな感じだった。私のなりしてむかつくぜ。

「別に怒ったり否定したりしませんよ。私に変身したいならどうぞしてください」

 言うが否や、バフンと、瞬きの間に変身さんが私の姿になった。うわあ、なんかほんと、うわあ。過去さんとノワの懐は深かったのだと思い知る。嫌な顔しなかった。見習いたい。

「こ、これは、これは違うんですっ」

 まだ抵抗する変身さん。なんだか面白くなってきたかもしれない。

「そんなに私に変身したかったんですね、変身さんの変態」

 一度言ってみたかったセリフを言うと変身さんは憤慨して、

「変態じゃありません、もっと純粋な気持ちだったんです!」

 ほんとけ? 邪な気持ちがなかったと言い切れるけ? などと続けてからかいたかったけれど、変身さんの迫力に押されてやめといた。

「本当にいいな、と思ったんです。他意はありません。SにはSで色々と悩みがあるかもしれませんけれど、やっぱり魔法にかかっていない、しかも私のような魔法使いに優しく親身に接してくれる人なんていません。だからかもしれません。これが純粋な気持ちです!」

 ふむ。そんなことないでしょ、いるでしょ他にも、と思ったけれど、あえて私がそれを否定することもないと思ったので言わなかった。それにしてもそこまで言われちゃうと断りにくくなるなあ。ちゃんと大人しくしてくれているだろうか。いっそ一緒に住むとかなら構わないかもしれない、家賃生活費全部変身さん持ちで。と、冗談で言ったら、

「よ、よかろう!」

 と、なぜだかお偉いさま口調で了承してくれた。いや、なんか悪いからそれは別にいいよ。

 とまあともかく変身さんは祈りさんのおかげで素直になることができた。それでこの件は一件落着とするべきなのかもしれない。私はというと、やっぱり自分と同じ姿の人間がひとりでに行動していると思うとまだ気が気でない部分はあるけれど、それも次第に慣れるのだろうと思うことにした。協力するって言ってしまった手前、何かしら力になれたらとはずっと思っていたのも事実だし、しょうがない。

 そう言うわけで、変身さんは主に私の姿で生活することになった。

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