ノワと友人
ノワの話をしておこうと思う。実を言うと、ノワと会ったのは日記を拾ったときが初めてではなかった。私は度々あの公園、特にあの鉄塔に憂さ晴らしに行くのだけれど、その時に何度か見かけていたのだ。それがノワだという意識はなかったわけだけれど。それは彼女も同じだったわけで、あの日彼女から人生相談めいた話を受けたのはお互いがお互いに今まで何か思うところがあったと言うことなのだろう。彼女はこんな風なことを言っていた。
「私は魔法使いじゃないんです。むしろその逆。魔法の方が私を使って、何か試みているような気さえするんです。その日記に書いてある通り、私は四歳の時に飼い猫の死を受け入れられず、死者蘇生の儀式を本を読んで知り、それを行い、魔法の力によって成功しました。それから約一年後、母の死に臨んだ時、やはり同じような儀式を行いましたが、今度は叶いませんでした。魔法は今度は力を貸してはくれませんでした。条件が整っていなかったのだと今では理解できますが、これは幼い頃の私にとっては相当のショックで、それ以来、魔法を使うことはありませんでした。あの時までは」
「私は魔法を解きたいんです。後悔しているんです。魔法を使ったこと、魔法があるから大丈夫だと思っていた自分自身を」
完全には思い出せないけれど、彼女はそんな風なことを言っていた。私はそれに対してなんて言ったのだろうか。ああだこうだ言った気がするがあまり思い出せない。色んなことを想像していたからだ。例えば今この場所から飛び降りたらどうなるだろうとか、この魔女の使い魔になるのも悪くなさそうだとか。もう少しこの魔法使いについて知りたいだとか。
あと一つ、友人の話をしておこうと思う。私が友人に出会ったのはノワの日記を拾う前の日。その日は夜中のとりわけ心細い徘徊だった。街の繁華街から少し外れた裏路地あたりをトボトボ歩いていると、前方に顔を押さえて苦しそうに喘いでいる人がいたので何気なく介抱してあげると、その男の子だか女の子だか定かではない感じの綺麗な顔をした人は落ち着いた後にえらく人懐っこくなって、なんだか私も馬が合うなと感じて、河川敷を散歩しながら二人で色んなことを話し込んだ。こう言う感じは久しぶりだな、心地いいなと思っていると、彼、もしくは彼女のほうから、澄んだ中性的な声で、友達になろうと言ってくれたのだ。そうして私に友人ができた。初めてではないが、今のところ唯一の友人が。その日はそのまま河川敷で別れたけれど、次に会う約束はしていないけれど、なぜだかいつでも会いたい時には会えるような不思議な感覚がしている。なんなら今日会える気がしている。
「やあ、また会ったね、僕の友人」
「ヘイブロ、ワッツアップ」
「なんだいそのテンション」
「ちょうど会えるかなと思っていたところだったから驚いたよ、どこから出てきたの」
「そこ」
友人が指差す先は川で、つまり今河川敷を歩いていたわけだけど、周囲に気配はなかったと思ったけれど、
「お主は河童かな、魚人かな」
「さあね、どっちでもいいんじゃないかな、僕は僕なんだから」
「なんかその自信、変身さんに教えてあげたい」
「変身さん?」
「ああいや、こっちの話」
「そっちの話か」
「うん」
友人からしばし探るような視線を感じたけれど、それもすぐになくなって、
「ねえ友人、困ったことがあったら、僕を頼ってくれよ」
ありがたい言葉をいただいた。
「もちろん、頼らせてもらうよ、なんてったって友人なんだから。そっちも遠慮するなよな」
「うん、そのつもりだよ。友人だからね」
こんな感じで、おそらく二人ともずいぶん友人がいなかったに違いない会話をして別れた。また次会う約束も、どこかで遊ぶ約束もしていないけれど、なんだかこの友人とは自然とまた会いたいときに会えるような気がしている。もしかしたら彼、もしくは彼女、あるいは僕さんは、私のストーカーか、魔法使いかもしれない。




