謁見
男の後について部屋を出てすぐの廊下を歩いているときのことだった。私の右手を小さな手が掴んだ。祈りさんだった。
「Sさんが怖くないように握っていてあげるね」
「わ、ありがとうございます、祈りさん」
その手は少し冷たくて震えていた。事態が事態だし、展開が急続きで落ち着く暇もないので無理もない。私の手もさっきから力が入らない。現実感が湧かない。それにこれから人にいうことを聞かせる魔法が使えるという人の元に行くらしいし、尚更緊張感が高まっている。思わずぶるりと身震いをしていたときだった。私の両肩に過去さんが両手を乗せて揉みほぐしてくれた。
「リラックスしてね」
「あ、ありがとうございます、過去さん」
いい匂いに混じって潮の匂いがする。過去さんはフライトでも心強くみんなを励ましてくれていた。ありがたい。
ふと左側を見ると、ノワが私の左手をじっと見つめていることに気が付いた。気が付いたので私はノワの右手をその手でそっと握った。
「わ、ちょ、なんですか」
え、そういうのと違ったの、調子に乗りすぎた、ごめんなさい、と慌てて手を引っ込めようとしたけれど、ノワが右手を強く握ったのでかなわなかった。
「いや、いいんです、びっくりしただけですっ」
大変可愛らしいノワの様子を見ながら、私は変身さん、お爺さん、花せるさんと顔を見合わせた。なんか私だけずるくない? まあ一応同性のよしみだしいいじゃないか諸君、と誰にともなく言い訳をする私。なんかモテるんだよな、同性に。いや、これはそういうんじゃないと思うけど。まあそれはともかく、みんなの温もりを肌と視線で感じて、私たちは男の後についていった。
「早よこんかいおどれら、早よ座らんかい、お茶飲まんかい」
ホテルの別室に着いた私たちを待っていたのはとんでもないせっかちな人だった。
「話聞かんかい」
そう言うと私たちは自然と早歩きになって、せっかちな人、人にいうことを聞かせる魔法さん、聞かせるさんの座るソファの対面に座って、側の机に用意されていたお茶を飲んで聞かせるさんの話を聞いていた。何これ。
「魔法狩りをやめさすんじゃ。そのための軍事作戦じゃ。戦争じゃなか。ついでに逮捕された連中も助け出してこの国に来てもらうだけじゃ、これはそういう作戦なんじゃ、のうじい」
「そうでございますね、王陛下」
「そういうことじゃ、おまんらさっさと出ていけ、ノワは残れ、話がある」
そうして私たちはノワを置いてまた自然と部屋の外に出ていて、
「なんだったんだ今の」
と、顔を見合わせたのだった。
そうして聞かせるさんとの謁見?が終わって部屋に戻った私たち。何だかあまりにも早く終わったし、言ってることがよく分からなかったので私たちは唖然茫然とした感じでノワの帰りを待っていた。それも5分程度のことで、
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、ノワ。話はどうでしたか?」
「どうもこうもあの調子なので、一方的にいうことを聞かされただけでしたよ。特別皆さんに話した方がいいことはありません。昔話の延長のようなものでした」
「そう、なんですね」
「はい、ですから、戦争が始まって、私が負傷者の手当てをする、そういう理由でこの場所での生活を許されている現状に変わりはありません」
「そうですか、わかりました」
何かしらノワが隠していることがありそうな感じはしたけれど追求はしなかった。ノワから話してくれるのを今は待った方がいいと思った。ここは異国の土地、四方は海で囲まれ、帰る場所も今はない。ノワのコネクションと魔法に頼るしか身の安全が保障されることはない。ここはノワの判断を信じて待とう。
そんなこんなで私たちの新しい生活が始まったのだった。




