状況整理
ノワの姿が見えたことで私たちは長いフライトの疲れも忘れてノワの元に駆け寄って行った。
「ノワ、心配しましたよ! 怪我はありませんか?」
群青色の髪を三つ編みにした、学生服にローブ姿の女の子、ノワは息を切らしながら走ってきたようで、はあはあ言いながら答える。
「はいっ、えっと、話せばっ、長くっ、なるんですがっ」
「ま、まずは落ち着きましょうか」
「はいっ」
ふうふうと息を整えるノワ。とりあえず彼女と再会できて本当によかった。みんな口々にノワにそう言っている内にノワは落ち着いて、にっこりと笑ってそれに答えた。
「私も皆さんに会えて嬉しいです。来てくださったんですね。パンプ、ありがとうございます」
「ニャア」とそれに答えたパンプがノワの肩に乗る。ノワがその首元をくすぐるように撫でるとパンプはご満悦のような鳴き声をあげた。
「ここは私を保護してくれた国なんです。人にいうことを聞かせる魔法によってできた国、聞かせるさんが作った国です」
「人にいうことを聞かせる魔法、ですか」
それならここはその魔法使いを崇める帝国だったはず。こんなのどかな場所だったとは知らなかった。この国は外国と通商などのやりとりはしていないし、国内では情報統制を敷いているとのことで、内部の正確な情報があまり入ってこないらしいし、私はよく知らない。
「私の居所がかつての知り合いにバレてしまったようなんです。それで慌てて身を隠す必要があり、この国の信用できる人物と連絡を取ってひと足さきに向かわせていただきました」
「えっと、色々聞きたいんですが、かつての知り合い、というのは一体」
「それは恐ろしい魔法使いです。魔法使いなのに魔法を根絶しようと目論む危険な思想家でもあります」
「な、なるほど。では細かくは今は聞きません」
「そうしてくださると助かります。何せ今は一刻も争う状況なんです。私たちの国で魔法狩りが始まるそうです」
「魔法狩り?」
「はい、魔法使いを逮捕する法律が施行されるそうです」
「え、なんでそんなことに、というか本当なんですか」
「本当です。私も普段ニュースを見ていないので寝耳に水だったんですが」
「みんな知ってましたか?」
私も普段ニュースを見ない民なので寝耳に水なんですが、みんなはどうだろうと振り向くと、過去さん以外みんなして首を傾げている。ひえ、浮世離れ集団だったのか私たち。
「私はお店のテレビでなんとなく」
過去さんもちょっと世間に疎いようだし、やばい集団じゃないか私たち。しかもさっき火を噴く魔法さんまで連れてきちゃったし、火を噴く魔法さん話せないから何を考えてるのかも分からないし、さっきのフライトでは全く火を噴く場面なかったし。
「えっと、私たち、何だか似たもの同士だったのかもしれませんね」
「そうね、ちょっと反省しているわ。ありがとうノワ」
「いえ、私もパンプから聞かされたので、今回のことは何から何までパンプのおかげなんですよ」
どんだけ優秀な使い魔なんだこの猫は。もはやこの群れのボスじゃないか。ボスと呼ぼう、いや呼ばせていただきましょう。
「パンプ、いえ、ボス。ありがとうございます」
みんなでボスにお礼を言う。ボスはあくびまじりに、なんてことないにゃ、お前らのお守りくらい、と言った。器がでかい。さすがボスだ。こういうキャラだったのかパンプ。
「それで、これからどうするんですか?」
問題はそこだ。ノワがこの国の人たちに話を通してくれていたとしても、この先一生この国で暮らすわけにはいかない。私には家族がいるかもしれないあの部屋が残されているのだから帰らないと。そう考えていると、みんなもそれぞれ思うところがあるようで、変身さんは家族の心配を、祈りさんは会長の心配を、過去さんはお店の心配を、花せるさんは菜園の花たちの心配を、お爺さんは特に何の心配もしていないようだった。
「おい若造、なんかわしの時だけ胡乱な目つきになって話を聞いておったな」
「き、気のせいですよお爺さん、落ち着いて」
また発泡スチロールの杖でポカポカ叩かれるけれど痛くない。あまりに軽い一撃だ。蚊でも止まったかと思ったぜ。
「それでは皆さん、とりあえず落ち着けるところにいきましょう。ホテルを取ってあるんです。そこでまずは休みましょう。話はそれから」
そう言うノワの向かう先に目を向けると、大きなワゴン車が海沿いの道に停車していた。
「迎えがきたようです、さあいきましょう」
そんなこんなで私たちはホテルへと移動したのだった。




