失踪
朝起きたら目の前にゾンビがいた。いや、お爺さんだけれど。間違ってないけれども。窓の外で雀がちゅんちゅん鳴いている。私の初チュンゾンビのお爺さんとじゃん。まあでもいい、これはこれで。私は寝ぼけている。
「おはようございますお爺さん」
「おはよう若造」
「今日はどうしますか」
「公園に行くとしよう。ノワはわしの命の恩人、でもないか、だからの」
「それは、そうですね。昨日の今日ですし、行きましょう」
というわけでお爺さんにはマスクをしてもらって二人で公園に向かった。
向かったのだけれど、いない。公園のどこにも、土管の中にも、鉄塔の上にも、近くの河川敷にもノワがいない。どこかに出かけているのだろうか。
そう思って待てど暮らせどノワは帰ってこない。祈りさんに手伝ってもらいつつ街中を探し回ってみたけれど見つからない。変身さんや過去さん、花せるさんも知らないという。こんなこと今までにない。おかしい。あんなに腹を打ち明けあった私に黙ってどこかに遠出するようなことも、優しいノワのことだしないと思う。
うーん、これはどういうことだろうか、事件だろうか、事案だろうか。いや多分そうだろうけれど、どうしよう。どうした方がいいんだろうか。本当のところが何一つ分からないからどうしたらいいのか分からない。私はテンパっている。いつもいるはずの人が突然いなくなるのはちょっとどうにも受け入れ難い。うーん。
「落ち着け若造、まずは花せるさんをここに呼ぼう」
「ん!そうですね、その通りです」
「花たちはこう言っていました。見かけない男たちと一緒に公園を出て行ったと」
花せるさんに来てもらってノワの家庭菜園の花たちに話を聞いてもらった。
「見かけない男たち、もう少し詳しく分かりませんか」
「すまない、花たちにはそれが限界らしい」
「そうですか、すみません、ありがとうございます」
「いやいいんだ、これは僕たちにとっても非常事態なんだ。ノワがどこかに連れられて行くなんて」
花せるさんは足裏を地面に叩きながら言った。
「とりあえずもっと情報を集めよう。ノワの過去を知っているかい?」
「はいっ。一応本人から話は聞いています」
「それなら話は早い。事態は一刻を争うかもしれない。彼女はまた人々に利用されて自由を失うことになる」
それだけじゃないと花せるさんは続ける。
「秩序が乱れてしまう。それも飛躍的にだ。死を超越する魔法なんて本来在っちゃいけないものが市場に出回れば争いが起きるのは確実だ。この国はまた大変なことになる」
花せるさんの言葉には危機感が纏っていて、聞いているこちらの焦燥感が駆り立てられる。でも現実感が湧かないので、まるで映画の場面でも見ているようだった。あのノワがそんなに壮大な物語に巻き込まれてしまうような人物だとは思えなかった。私がおかしいのだろう。あまり魔法に対して憧れや希望を見出すような過去を持たないから、魔法は単なる個性くらいにしかみていなかったけれど、魔法を持っていない人々からすればそんな奇跡は喉から手が出るほど欲しいに決まっている。それがたとえ自分自身が思うような代物ではなかったとしても、現実を超越した力の前に、人間は魅了されてしまうのだから。なんて知ったかぶってみても、やっぱり落ち着かなかった。
「情報を集めると言っても、知ってる限りの人には連絡しましたけれど」
「パンプがいる。あの子はノワの使い魔だから行き先がわかるかもしれない、なんか不思議な力で」
「なんか急にふわっとした」
「そうじゃな」
「いや、僕もテンパってるんです。警察の手も借りられないし、教会もどうにもならなくなった時には頼らせてもらいますけど、今は公の場に立つことは避けたいはずですし。自分たちでどうにかできるならそうしたいんです」
「まあ話はわかるがの」
「でもパンプは滅多に姿を見せませんし、どうやって探したら」
そんなことを思っていると、
「ニャア」
「……ニャア!」
本人からこの場にやってきてくれたのだった。




