お爺さんの死
お爺さんが亡くなった。ある日の公園でノワから聞かされた。そして、
「本当なんじゃ、奴らとち狂っておるわ、わしは本当に嘘を本当にする魔法が使えるというのに全く信じようとしないんじゃ!」
ノワの魔法によってゾンビとなった、なんじゃお爺さんが誕生した。なんか訃報なのに、こうして目の前で元気に喚き散らしてると体の力が抜けてしまう。悲しみがすり抜けていく。まあそれはそれでいいのか。問題はその死因だった。
「奴らわしの家に押しかけてきてな、それなら使ってみせろというんじゃ、そんなこと言われたって、使ったらそれは本当になるんじゃから証明の仕様がないというものじゃ、奴らそんなことも分からないからの、口論の末に拳骨を据えてやったんじゃ」
押しかけてきたというのは魔法に対して差別や偏見を持つ人々の集まりでできた政党の人たちらしい。お爺さんは日頃から口々に自分が魔法を使えると喧伝していたので、その噂を聞きつけた関係者の人たちが家に押しかけて、お爺さんとの口論の末、揉み合いとなり、つまづいたお爺さんがタンスの角に頭をぶつけて意識不明の状態で病院に運ばれたけれど手術も虚しく帰らぬ人となってしまった。
先に殴ったのはお爺さんの方とか、そういうことはさておき、ご老体の家に五人の人数で押しかけて口論をするというのはちょっと想像できない異常さだ。その末に相手を死なせてしまうなんてあまりに行き過ぎている。
ただ、こういう事件は最近珍しいものでもなく、他国間の戦争に伴う物価の上昇や、国内の不況による格差の拡大、世代間ギャップなど、さまざまな軋轢が差別や偏見を助長している世間の雰囲気の中、過激派組織の誕生によってますます反魔法的思想とその実現に根ざした差別や迫害は勢いを増している。連日ニュースでもその問題が取り上げられていて、国会でも毎日議論が紛糾している。主な争点はやはり魔法使いと非魔法使いのギャップにあり、また魔法使いがもたらすさまざまな災害級に及ぶ被害の蓄積から、世論は反魔法的思想に傾いていると言っていい。街を徘徊していても街頭演説をする政治家の話にもそういう話題を耳にすることが多いし、駅前の掲示板や店先に反魔法的思想家の言葉と共に魔法使い廃絶を唱えるポスターが貼られていて、それらは日毎に数を増やしている印象だ。
とまあそういう世の中事情もあるので、魔法使いたちと私は最近顔を合わせる回数も減りつつあり、彼ら彼女らはひっそりと日々の暮らしを送っている。それはさておき、今は目の前のお爺さんを宥めなければいけない。というかこのお爺さん、そしてノワはどうやってここまで来たのだろう。その話だけで日が暮れそうだけれど。
「落ち着いてください、お爺さん、血圧も上がっちゃうし」
「わしにもう血圧もクソもありゃせんわぼけい!」
「うわあ、すみませんごめんなさい、ってやっぱりその杖で叩くっ」
宥めるどころか逆鱗に触れてしまった。私ってばおっちょこちょいだなあ。やはり発泡スチロールでできていて痛くも痒くもないので余裕である。
「お爺さん、魔法を解きますよ」
「ノワ、冗談じゃ、よしなさい」
ノワの一声にお爺さんがキリッと言う。もうノワには逆らえない。ノワの後ろに隠れていよう。それにしても、
「これからどうするんですか?」
今の所一番の問題はそこだ。ノワとパンプ(滅多に見かけない)とこの公園で半自給自足的生活を送るのだろうか。なんかやだなあ。いや、個人の感想です。
「お爺さんは家に帰ると言って聞かないのですが、それはまずいので」
「だって婆さんが、待ってるんじゃもん」
そう言われると誰だって同情して強く言えなくなるじゃん。でもお爺さんに待ってるお婆さんがいないことは周知の事実だった。彼は生涯を独身で貫き通したらしい。理由はさておき、あの見た目と言動の胡散臭から人望は得にくいだろうなとは思ったけれど、決して口にはしない。いたっ、なんかまた杖で叩かれた。
「私としてはここで一緒に生活して欲しいのですが」
「それはなんかいやですねえ」
「なんで嫌なんじゃ、お主関係ないじゃろがい」
「いや、ノワと二人きりにさせるのがなんかその」
「別に孫ほど歳の離れた娘に手出しなんぞせんわい」
「そういうことは別に心配はしてないんですが」
「心配してくれないんですか」
「いや、ノワ、分かってて言わないでください」
放っておいたら重くなりそうな雰囲気を冗談で和ませつつ、
「仕方ありませんね、私の家で匿いましょう」
「いいんですか、Sさん」
「わしはなんかこやつ嫌なんじゃけど」
「お爺さん」
「ノワ、わしはこやつの家に匿ってもらうつもりじゃ」
と、そんなこんなで私の家にお爺さんが来ることになったのだった。




