先に祈るということ
先に笑って、面白いことが起こるのは後。先に転んで、つまづくのは後。先に信じて、先に祈るということは、そういうこと。そう言ったのは祈りさん。いつもの礼拝堂でお祈りしつつお話ししているとそんなことを話し始めた。つまりどういうこと? と私は聞き返しそうになってグッと堪える。まずは自分で考えてみよう。うん、よくわからない。早くない。
「つまりどういうことですか?」
「つまりそういうこと」
「えっと」
「えっとじゃない」
「いや」
「いやじゃない」
「からかわないでくださいよ」
サジを投げる私をくすくす笑う祈りさん。まったくこの小悪魔さんは意地悪が好きだなあ。
「それでどういう意味なんですか? 先に笑って、面白いことが起こるのは後、だなんて変じゃないですか」
「そうだね、変かもしれない」
「順番が逆ってことですか? こうしてお祈りしていても、お祈りするようなことがないなら、それは変だってことですか?」
「つまりそういうこと。でも変だとは言い切れない」
「私、ちゃんと祈ってますよ。具体的な対象はないですけど、自分には手の届かない場所にある物事について」
「別にSさんが変かどうかって話じゃないよ。最近のSさんの祈りの姿はなんだか様になってきてるし」
褒められた、嬉しい。
「これは私の育ての親が言っていた。育ての親というのはここの会長なんだけれど」
初耳だ、挨拶しに行かないと。娘さんを私にください。むしろ娘さんに私をあげてください。ん?
「なんでにやけてるの?」
「いや、一生幸せにしてくださいね」
「何を言ってるの? まあいいや」
スルーされてしまった。まあいいや。
「先に祈るということ、という詩からの言葉だって会長は言っていた。私はそれがどういう意味なのかいつも考えてる」
なるほど。そういうのって意外と誰にでもあるようなないような。宿題とか課題とか仕事じゃないけど取り組まなきゃいけないような気がする物事。
「祈りさんはどう考えているんですか?」
「私は……まだよくわからない。ただ単に変ってわけじゃなくて、でも変じゃないとも言い切れなくて」
「つまりこんがらがってしまっているというわけですね」
「そういうこと。Sさんなら何かわかるかなって」
なんだか意外と期待の眼差しで見られてしまう。よせやい、胃に穴が空いちゃうよ。
「じゃあなんとなく感じたことを」
「うん」
「小さい頃は確かに先に笑うことが多かったような気がしますね。いろんな予感とか予想に満ちていて、いろんなことを想像して。知らないことが多かったし、次々に新しいことがやってきて、退屈している暇もなかったと思います。今だとそれらは妄想に変わったような気がします。現実を理想で捻じ曲げて満足する。退屈することなんてしょっちゅうです。何をしたらいいのか、自由だからこそ、限界を知ってしまったからこそ、分からない。自分の背より高い棚の上にあるものは、手元に寄せることよりも、元の位置に戻すことのほうが難しくて、そのことを大人になればなるほど思い知って、ってなんか抽象的になってしまいましたけど、こんな感じでどうでしょうか」
「なんとなく、わかった」
「なんだかいつもこんなやりとりしてる気がします」
「Sさんはいつも一生懸命話してくれるからいいと思う」
頑張りをお褒めいただいた。嬉しい。
そんなこんなで私たちは今日も祈るのだった。




