かくれんぼ
「かくれんぼをするとなると変身さんってめちゃくちゃ有利どころかチートですよね、反則ですよね」
私は不意に思って、土管の中でお茶会をしていたノワと変身さんに訊く。言われてみればそうですね、とノワ。どうしたんですか急に、と変身さん。
「いや、特に意味はないんですが、そう考えると変身の魔法ってずるいなと思いまして」
今さらですね、と変身さん。ノワは少し考えて、やってみましょうか、と言う。
「何をですか?」
「かくれんぼです」
「いや、それは反則だって話をしているんですよ」
「いえ、それはやってみないと分かりませんよ」
ふっふっふ。と突然不敵な笑みを浮かべ始めた変身さん
「ノワさん、あまり僕の変身の魔法を侮らない方がいいですよ? コテンパンにしてあげます」
なんで乗り気なんだろうこの人たち。そう思いながら二人と一緒に土管から這い出ていざかくれんぼ。
結果から言うとそれは普通のかくれんぼと何も変わらなかったし、変身さんは私とノワにコテンパンにされた。変身さんは変身できなかった。なんだったんださっきの自信。
「僕はいつも肝心な時に変身できずに失敗ばかり繰り返してきたんです」
「ま、まあ、これはただのかくれんぼですから、お気になさらずに」
落ち込む変身さんをノワが励ます。
「それにしても変身さん、かくれんぼが下手ですね」
自分の姿をしている人に言うのもなんだか複雑な心境だけれど。変身さんは変身できるから人目を欺きやすい。
「まあそうですね。僕は人目を気にする必要ないですから」
「それってある意味アドバンテージですよね。私なんていつも人目ばかり気にしてますよ」
「自分に自信があるなしに関わらず、そもそも自分がないですからね、お気の毒です」
なんだか今日は変身さんの調子がいい気がする。まあいつも自信なさげにしているからこういう一面が見れるのはちょっと嬉しくもあるけれど。
「それにこの前ノワが私を利用して」
「うわーっ」
なんだなんだ、ノワが慌てて変身さんの口を塞ぐ。
「言わないでくださいって言ったじゃないですかっ」
「そ、そうでしたね、すびばせん」
ジロッとノワが私を見据える。
「な、何も聞いてませんよ」
「そうでしたか、じゃあいいです」
えー、いいなあ二人だけの秘密かー。
「珍しいですね、ノワがそんな風に必死になって」
「そ、そうですか? 私はいつも生きるのに必死です」
思いの外重い返しをもらって何も言えなくなる私。ノワは慌てると嘘がつけなくなるようだ。
「えっと、とりあえずこれからどうしましょうか」
見かねた変身さんが話を変えた。
「うーん、せっかくですし、もう少し遊びましょうか」
「あ、じゃあ次は鬼ごっこがしたいですっ」
そんなこんなで私たち三人は日が暮れて公園の街灯がつくまではしゃいでしまったのだった。
夜になって二人と別れた後の帰り道、私は久しぶりに友人と出くわした。出くわして挨拶を交わして、いつも通り他愛のない話をしてから、少し友人の表情が陰っていることに気がつく。
「なんかいつもより元気ない?」
「あ、わかるかな、そうなんだ。ちょっとね」
「話してみなよ、楽になるかも」
私は軽い気持ちで言ってみる。
「そうかい? じゃあ話してみようかな」
やけに神妙な面持ちで友人は語り始めた。
「これは長い長いかくれんぼの話なんだ」
「遊びの?」
それならさっきやってきたばかりだ。
「違うよ、本気のかくれんぼ。僕はある人から一生隠れて生きていくって決めてるんだ。そしてそれができるんだ」
「ふうん、ある人ってどんな人?」
「それは言えない。君が知っている人だから」
なんだかちょっと思わせぶりな様子で友人は言う。
「気になるな。変身さん?」
「言えないって言っただろ、詮索するのも禁止だよ」
「そうかい、じゃあしない」
無理やり聞き出さなきゃいけないような理由もないし、相手が嫌がることをする道理もない。
話はそこで途切れて、いつの間にか友人はいなくなっていて。私は一人に戻った。




