コンパス
祈りさんはコンパスの役割をこなしている。祈りさん曰く、祈れば魔法を使えるわけではないけれど、魔法を使う人はみんな祈っている、とのことで、魔法で困っている人を救いたい教会の仕事として、毎日街を歩いている。私はそんな祈りさんに付き添って街を歩くことにした。
「ついてこなくてもいいのに。どうせ何もないよ」
「何もない方がいいじゃないですか。どうせ私は街を徘徊する予定ですから一石二鳥なんです」
「ふーん」
なんて言っていたのも束の間、住宅街を歩いていた時のことだった。不自然なほどの更地があった。一軒家四軒分くらいの土地がまっさらで、その片隅にパジャマ姿の女の子が立っていて、通行人から視線を集めていた。
「祈りさん、これ」
「うん、さっき、みんなどこかに消えてしまえばいいのに、って祈りが聞こえた」
「うわあ、確かに何もないですね」
「別に上手くないよ。……行こう」
祈りさんが女の子の元に歩いていくので付いて行く。
「こんにちは、私は祈り、魔法に困っている人を助ける教会の者。何があったか聞かせてもらってもいい?」
祈りさんのその言葉に女の子は一切反応しなかった。無理もない。魔法を使った後というのはみんな大体こんな感じになりそうだ。私だって三日三晩眠れずに大変だった。
「大丈夫? とりあえずこれを羽織って」
パジャマ姿だと何かと視線を集めるので私は着ていたジャンパーを女の子の方に羽織らせた。女の子はそれに対してようやく反応して小さくありがとうと言った。
「私、魔法を使っちゃったの?」
女の子が言ったその言葉にはいろんな意味が含まれていそうだった。けれど祈りさんはシンプルに答える。
「多分ね、そうじゃなかったらおかしいと思うでしょ?」
「うん……」
「とりあえず教会に行きましょう。そこでこれからのことを一緒に話そう」
そういうわけで私たちは教会の礼拝堂にやってきた。道中あれこれ女の子のことについて質問して、女の子も素直にそれに答えてくれた。だからこれから話すことは多分、女の子の行き先について。
「私も魔法が使える。みんなの祈りが聞こえる」
「祈り?」
「そう。普通の願い事じゃない。もっと特別で、絶対に手の届かない場所にあるような願いのこと」
「絶対に、手の届かない」
「うん。私にとって魔法はそれが叶ってしまうこと。あなたの祈りも聞こえてた。みんなどこかに消えてしまえばいいのに、って」
「……あってる、すごいね」
「だから、あなたの魔法は、みんなをどこかに消す魔法」
いや、めちゃくちゃやばい魔法だ。でもみんなって結構曖昧だ。この女の子にとってのみんなに含まれている人を、おそらく本人ですら把握できないかもしれない。魔法の理不尽さに驚く。
「分かってると思うけど、その魔法はもう使えない。あなたにとってのみんなはもうどこかに消えてしまった」
「うん、そんな気がする」
「あなたに残された道は二つ。一つはこのまま警察に行って事情を話して、福祉のお世話になること」
一番妥当な気がする。
「もう一つはこの教会に入って、魔法によって消えてしまったみんなを探すこと。どうする?」
それが彼女をここまで連れてきた理由。魔法を使ったことを世間に知られずに、魔法によって起きたことを元通りにしようと頑張る。そういうわけで、この教会は発足したらしい。魔法使いは差別や迫害の格好の的になる。その魔の手から逃れるための教会。徘徊がてらお祈りしている私は特別。女の子はどっちを選ぶのだろう、と思うまもなく、
「お世話になります」
「うん、分かった。会長に話すからついてきて」
「はい」
そう言って二人礼拝堂を出て行った。取り残された私はとりあえず祈ることにした。
女の子のみんなが戻ってきますように。




