花と話せる魔法
「困ったことになりました」
ある日の公園、やってきた私に開口一番ノワが言った。
「どうしたんですか?」
「私の菜園に咲いている茄子の花に恋をしてしまった人がいて……」
「え?」
「プロポーズしたいと言われたんですっ」
「なんですと」
またもやノワが困った人に絡まれてしまったようだ。
話によると、茄子の花に恋しちゃったのは大学生ぐらいの男の人で、贈り物を持って後日改めて挨拶に伺うとのことだった。なんじゃそりゃ。確かに花は綺麗だけれど。
「その人、花と話せる魔法を使えるんです。菜園の知識もその人に教わっていて」
なるほど。それにしてもノワの知り合いは変わった人が多い。まあ魔法使いなんてみんな変わっていて当然かもしれないけれど。
「それでノワは何に困っているんですか?」
確かに育ててる花に恋してプロポーズしたいと言われたら誰でも戸惑うものかもしれないけれど。
「しっかり品定めしないと」
「え、もしかして本気なんですか?」
「毎日丹精込めて育てた花です。半端な人には渡せませんっ」
なるほど。変人のもとには変人が集うのだな、と納得した。
「Sさんも手伝ってください、二人で挨拶にくる彼を迎え撃ちましょう」
「まあ、なんだかノワが楽しそうなので付き合いましょう」
こうして私たちは茄子の花に恋しちゃった男の人、花せるさんとの決戦に備えた。
「彼女?のどこが好きなんですかっ」
「容姿はもちろん、一番は優しく思いやりのあるところです」
土管の中、プロポーズにきた花せるさんと植え替えをした茄子の花、ノワ、そして私が向かい合い、頭をぐわんぐわんさせながら話している。
「何があっても彼女を守り抜くと誓いますかっ」
「はい! 誓います!」
「病める時も健やかなる時も!?」
「はい! 誓います!」
ノワは丹精込めて育てた花の保護者として花せるさんの覚悟を試している。というか今挙式を挙げているような勢いだ。当事者である茄子の花さんの気持ちをまだ聞いていないので私からは何も言いようがないけれど、花せるさんの気持ちと覚悟は本物で、文句はつけられそうになかった。
「では、茄子の花さんのお気持ちを窺いたいのですが、私たちは話せないので通訳をお願いすることになりますが……え、これ不味くないですか? ノワ」
「私としたことが失念していました。花せるさんの善意を信じる以外、茄子の花さんの本当のお気持ちを知ることができません。これでは花せるさんが不埒な輩だった場合、茄子の花さんを大変傷つけてしまうことになります」
「そうですね、どうしましょうか」
「試すしかないでしょう、花せるさんの善意を」
そういうわけで、私たちは花せるさんの善意を試すために、いくつかの誓約書、破ったら罰金いくらとか、茄子の花さんとの婚約破棄とか、そういう内容のものを用意してサインしてもらった。花せるさんの態度はいたって誠実で、そのどれもを本気で守ってくれそうだった。真面目な人なのだろう、いくつか不当な契約の内容もあった気がするけれど、愛の前にそういうことは関係ないみたいだった。
「では最後に、茄子の花さんのお気持ちをお聞かせ下さい」
「はい。彼女はこう言っています。日差しがほしい、と」
「とりあえずでましょう」
「そうしましょう」
そうして私たちは土管の中から這い出て、二人の婚約を祝福したのだった。




