早くフればいいのに。@柿本英治
二学期の始まりの日。
僕は放課後残されていた。
他ならぬ片想いの恋人に。
これは、きっと別れ話だろう。
「もー! なんで来なかったの!」
「ごめんね」
夏休みはだいたいブッチした。大きなものだと、誕生日と夏祭り。
祝いたい気持ちはあれど、僕にとってはただの日常でしかなくなっていた。
祭りたい気持ちはあれど、僕にとってはただの痛い思い出になるのがわかっていた。
それと、家に来るか行くかの話もされ、困惑しながらもやんわり断っていた。
本命の彼氏くんにも悪いしね。
「ずっと待ってたんだからね! 信じられない!」
「いや…そうだよね…」
彼女はまだ怒っていた。
いや、待ってなかったよね。すぐ彼氏くんのとこ行ったよね。
想像でしかないが、外れていないと思う。
事実、だいたい僕との約束は夕方まで。ラインの返信は翌日だった。
事実、絶対に連絡の取れない日が月に一〜三回はあった。
それにこの怒った表情も何か後ろめたさの上に乗っている気がする。
でも僕はそんな事は言わない。
そんなの彼女が可哀想だ。
「またさくら怒らせたの? 柿本くんって天才? 別れたほーがいいんじゃない?」
「それな」
「それな、じゃな──い! 全然反省してないんだから! もー英治くんとは口きかないんだから! ふーんだ!」
つい、花咲さんの友人、城戸さんの発言に乗ってしまった。
だけどチャンスだ。
煽ろう。
「さくら…ほんと抜けててさ。やっぱり僕は城戸さんの言うように、君には相応しく───」
「あ〜嘘嘘! ごめん、さくらわがままばっかで…英治くんのこと考えてなかった。ごめんなさい」
「……ううん、僕こそ……ごめん」
なんで…いい感じの終わらせ方のイントロだと思ったのに…
これでもダメなのか。
二学期のスタートはほろ苦いものになってしまった。
また地獄のような日々が始まるのか。
約束を守らない偽彼氏なんて早くフればいいのに。
本当に酷くて可愛い女の子だ。
しかし、この人なんでキレないんだろうか。