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あとは仕上げだけだ。@柿本英治

 春休みが開け、始業式の日。


 また花咲さんと帰りが一緒になってしまった。


 今日は大事な日だったから出来れば一人にして欲しい。


 それにこの日は一年前を思い出してしまう。


 そう思っていたら彼女は一枚の紙を鞄から取り出して僕に渡してきた。



「花咲さん、何これ?」


「わたしの…診断書」



 あのこと、やっぱり気にしてたのか。でも僕には関係がない。



「そんなことしなくても」


「これでわたしのこと信じて欲しい…」



「だってどう考えても…あ、でも健康そうだね。良かった」



 女の子にとって、男の子が思うほど大事なものじゃないから。


 そう言いながら初めてのていで雨谷さんは裸で迫ってきた。


 でも、大学生との仲を知っている僕はビョーキが怖くて、何も出来なかった。


 だけど逃げ出す勇気だけはあった。


 いや、恐れていただけだろう。チラリと見た雨谷さんは悲しい顔をしていた。


 女の子に恥をかかせてしまった。


 僕は本当に酷いやつだ。



「っ…さくら、本当に、本当に英治くんが好きなの…信じて欲しい…こんな身体なんか切り裂いて…切り刻んで…枯らして…入れ替えたい…英治くんが…初恋なら…初めてなら…良かったのに…ううん、違う…初恋は…英治くん…」


 

 なんか花咲さんが途中からぶつぶつと言い出した。


 かろうじて拾えたのは初恋と初めてというワードだけだった。


 初恋か…多分、花咲さんにしていたんだと思う。事実、今でも俯いて呟いている彼女を何とかしてあげたくなっている僕がいる。


 男は初恋の女の子に弱いと聞いたことがある。


 事実そうだ。


 だから彼女は怖い。


 惨めを枯らす毒が強い。


 花を咲かせる毒が強い。



 でも僕なんかに罪悪感を感じて欲しくない。


 僕なんかに縛られて欲しくない。



「…女の子にとってはそんなに価値ないってゆりに聞いたけど…それに僕にはわからないしね。花咲さんはそのままで良いと思うよ。あ!」



 城戸さんと本庄さんが後ろから走って来るのがわかった。


 今日の花咲さんは殊更思い詰めた表情をしていたから心配して跡を尾けていたのだろう。


 花咲さんのことをちゃんと見ているんだな。



「さくら! またクズと! 柿本! またさくらを泣かせる気!」


「そうよ! 柿本! さくらに近づかないで!」


「沙織! 夕香! 違うって言ってるでしょ! 何回言わせるのよ! 英治くんは──」



 これはチャンスだ。


 全力で乗ろう。


 花咲さんとのことを思い出して、惨めさに打ちのめされたように振る舞おう。


 経験は生きる。


 恋も愛もちゃんとは知れなかったけど、シミュレーションと経験だけはしっかりと僕の中に刻まれていた。


 カッコ悪い振られ方練習を思い出せ!



「ご、ごめん! 今後二度と話しませんから! 許してください! ひぃぃぃぃぃぃごめんなさ〜い!」


「あは、あいつ、めっちゃ情けな」


「あはは、コケかけて笑うね。ほら、さくらも見てみなよ」


「二度と?! 待って英治くん! 英治くん! 沙織離して! 夕香もどいて! ほんと刺すよ! これで刺すから! 離して!」



 城戸さんも、本庄さんもきっちり仕事をしてくれる。


 シミュレーションのままだ。すごい。


 本当に出来る人達だ。


 花咲さんは良い友人を持っている。


 だから刺しちゃ駄目だと思う。



 あとは、仕上げだけだ。

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