エイは最高?
「イエイイエーイ! エイは最高だぜ!」
エイのエイ太はいつもそう言って、得意げに海を泳ぎ回っています。
「この長い尻尾に平べったい体。どこから見ても完璧だ! エイは最高の魚だぜ! 君もそう思うだろう?」
「あら、私も負けていませんわよ」
そう言ったのは、ミノカサゴのミノちゃんです。ミノちゃんは綺麗なヒレをなびかせ、エイ太の前でくるりと一回転してみせます。
「私のこのヒレをご覧なさい。ただ美しいだけではなくって、身を守るための毒もあるんですのよ。こんなに立派なヒレを持つ魚は、他にはいませんわ」
派手なヒレをひらひらと揺らすミノちゃんに、横から「ぼくだって」とトビウオのトビーが割り込んできました。
「ぼくは尻尾で水面をはたいて、海の上に飛び上がることができるんだぞ。こんなことができる魚はぼくだけさ。君たちは海の上の景色なんて、見たことがないだろう?」
えっへんと胸を張るトビーの前に、猛スピードで誰かが飛び込んできます。びっくりするみんなの前で、ぐるぐる泳ぎ始めたのはマグロのマッグです。
「何を言ってやがる、俺様こそが一番に決まっているだろう。俺様は生まれてから一度も泳ぐのをやめたことがないんだ。寝る時だって食べる時だって、いつも泳ぎ続けてるんだぞ。お前らにはそんな芸当、できないだろう?」
泳ぎ続けながら言うマッグに、エイ太もミノちゃんもトビーもみんな「自分の方がすごい」と言い返します。そこに、鮭のサーさんが通りかかりました。
「ちょうどいいや。誰が一番すごいか、サーさんに決めてもらおう」
エイ太たちはそう言ってサーさんを引き留め、それぞれ自分たちの自慢を始めました。
四匹それぞれの話を聞き終えたサーさんは、静かに言います。
「私は狭い川で生まれ、大きくなってからこの海に来ました。そこでこの世界にはたくさんの魚がいて、その全員が生き残るために色んな力を持っていると初めて知りました。皆さんはそれぞれ、自分だけの能力や特技を持っています。私はそれが、とても羨ましいです」
サーさんの言葉に、四匹は口をつぐみます。
「私は明日、自分が生まれた川に向かって旅立ちます。そこで私のお父さんやお母さんのように、卵を産んで子どもを育てるのです。その道中で他の生き物に襲われたり、食べられたりすることもあるかもしれません。でも、私は『鮭』として生きるために川に向かいます。だから皆さんとは、今日でお別れです」
黙ったままのエイ太たちに穏やかな眼差しを向け、サーさんはそう言いました。驚くエイ太たちにサーさんは一度、頭を下げると静かにその場を泳ぎ去って行きます。
エイ太はその後ろ姿を見ながら、ぽつりと「サーさんは、すごいな」と呟きました。
◇
次の日。エイ太とミノちゃん、トビーとマッグはサーさんのお見送りをするためにみんなで集まりました。
「皆さんは、最高の魚です。私も皆さんのようになれるように頑張ります」
そう言って別れの挨拶を告げたサーさんは、エイ太たちに背を向けて泳ぎ始めます。
「頑張れサーさん! サーさんは最高の魚だ!」
「鮭は最高! サーさんは最高だぜ!」
エイ太たちはサーさんに向けて力一杯、ヒレを振りました。