第8話 犯人さがし
「
理想に近づくたびに思う。
これは長くは続かない。
自分のことだからよくわかる。
このメッキは剥がれだす。
すぐに腐敗して真っ黒に
つらい現実にもどるなら
ここで終われたら、、と思う。
」
ーー誰が書いた日記だろう。
どこかで読んだ気がする?
「ーー何をしてるんです?」
「博士すまん。俺は今日しぬことにする」
「唐突ですね? お腹でもこわしたんですか?」
「ここの飯はうまかったさ。快適な暮らしだったよ。今まで書いた日記は置いといたから好きに読んでくれ」
「ありがとうございます。これから死のうってのに律儀なもんですね」
「ふふ、まあな。、、博士ところでな、俺は犯人がわかったぞ」
「え? 誰なんです?」
「犯人は俺だ」
「はて? 真犯人は別にいると言いましたよね? 私が探しているのは実行犯ではなく真犯人なんですが?」
「犯人は俺なんだ。
やったのは俺。その原因を作ったのも俺。
であれば、博士の言う真犯人ってやつも俺ってことになるだろう?」
「なるほど。
しかし真犯人が自分ですか。
例えば職場での孤独。
幼少期のいじめ。
この辺りは環境的な背景が大きい。
捕まらないだけの犯罪者と呼べそうな人間もいそうな気がしていたんですが、、」
「その原因が俺なのさ。
そいつらの行動は結果でしかない。
俺は捉え違えをしてしまっていたんだ。
いじめられたって、孤独感だって
まっとうに生きている人ならいくらでもいるだろ?
博士の言う小説でいうなら、犯行を唆す真犯人が居たとして、それが俺の中にいるって話なのさ。
そいつの頼みを断ればよかったんだ。
名探偵さんの助けを借りなくてもね」
「そうですか。
それで貴方は自首するわけですか。
私はかえって蒸し返しただけでしたかね?
すみません」
「気にするな。
反省というのかな? 人生を振り返る機会になったよ。
また、人に生まれてきたら次は解釈を間違えないようにするさ」
「期待していますね。後片付けはちゃんとしときますよ。精神病患者の自殺なんて珍しくもないでしょう」
「ああ、頼むよ。じゃあな。
、、できたらこれからは犯人探しなんてやめて、犯人になってしまう仕組みを変える方法を考えといてくれ」