第一話 犯人探し
ーーこの世に罪人など必要だろうか?
いや、いらないだろう。
罪を犯したいとも思わない。
だから時々思うのだ。
彼を罪人にした犯人は誰なんだと。
◇
「
理想に近づくたびに思う。
これは長くは続かない。
自分のことだからよくわかる。
このメッキは剥がれだす。
すぐに腐敗して真っ黒に
つらい現実にもどるなら
ここで終われたら、、と思う。
」
ーー誰が書いた日記だろう。
続きがある。
ともかく読んでみるか?
次のページをめくる。
「
強い不安のせいだろうか?
町を歩くと人の声がとがる。
なぜか悪口だけを言っている。
すこし前から世界は真っ黒だ。
向こうから人がくる。
じゃまだ。
だが、相手はよけようとしない。
仕方なくよける。
だが、少しおくれて相手もよけた。
お互いよけたため、結果的にまたよけなくてはならない。
イライラしながら、またよける。
だが、またその先をふさがれた。
まただ。
また道がふさがれた。
、、なんだ、そういうことか。
結局、私のじゃまがしたいのか。
やつは、素知らぬ顔でどんどん近寄ってくる。
いっそ刃物でも持ちあるくか? それがいい。
そうすれば、さすがによけるだろう。
私が子供みたいな顔だちだから、なめてるのだ。
きっとそうだ。
やっと家に着く。
イラつきで、手がふるえる。
家のカギがとりだせない。
玄関のドアを蹴りあげる。
ようやく少し落ち着いて、無事カギをあける。
家に入る。
疲れきっている。
目をとじる。
やっと1日が終わる。
明日、目が覚めなければいい。
」
ふむふむ。
よほど歩くのがヘタなやつらしいな。
何度もじゃまするヒマ人などいない。
こいつの勘違いだろう。
勘違いやろうの、なんとも腑に落ちない文章であるはずなのだ。
だが、、これは、なんとなくなんだが、少し興味がわいた。
また、次のページをめくる。
「
夜道を歩いていて人がまったくいなかった。
これからは夜道だけを歩くのはどうだろう?
人が居ないなんて素晴らしい。
何とも快適、、と思いかけたところで、誰もいないはずの道がふさがれる。
視線を上げると、黒い影のようなものが電柱に浮かんでいた。
どうやら幻覚が見えているようだ。
思わず、笑ってしまった。
ここまでするのかと。
少しして、笑ってしまった自分がイヤになる。
本当はイヤなはずなのだ。
」
とりあえず、こいつには幻覚が見えるらしいな。
また、次のページをめくる。
「
歩くだけでもこの通りだ。
たった飲み物一つ買うでも、疲れきる。
すれ違う人は自分をバカにしているように感じる。
ガマンしてやり過ごす。
家に着いて、またドアを蹴りあげる。
部屋に入って言葉にならず叫ぶ。
とうの昔に玄関のドアは歪んでいる。
逃げてばかりの人生だ。
じゃまがお似合いなのかもな。
また少し笑ってしまう。
......
」
ふーん。
まだ途中だったが、次のページをめくる。
少し興味がなくなってきた。
「
なんというか。
さっきと似たような話だったり、急に人生だのと、まとまりがないんだよな、、。
自分が書いたことを覚えてないのかな、って、、、、あれ?
俺の感想が書いてある??
なんで??
」
え??
前のページに戻る。
「
」
何も書かれていなかった。
さっきまでは、書いてあったのに。
どこをめくっても、その日記は白紙だった。
本は内容より、読んだページ数に快感を覚える俺だ。
自分の仕事の成果を奪われたようで、少しガッカリだ。
しかし、不思議な日記だ。
この世にこんな日記などあるはずがない。
あと、ここはどこだ?
記憶にない場所に、不思議な日記、、。
まさか!? これが今流行りの異世界転生というやつか!?
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、違いますよ。ちゃんと日記は書けましたか?」
この部屋には窓があり、そこから部屋をのぞくオッサンに話かけられた。
こんな笑い方をするやつを、前の世界では見たことがない。
いよいよ異世界転生な気がしてきた。
「まったく。ここにきて2ヶ月。
これでは本当の精神疾患者のようではないですか。
やれやれです。
私との取引を忘れてしまっては困りますよ?」
オッサンはやや冷めた口調で言った。
異世界転生でなければ、何だというのか?
さっきの日記のことといい、このオッサンを問い詰めてみることにしよう。