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☆ 帝国騎士第六班


 任務に付いていた四人の帝国騎士達は、ガラガラと空の護送馬車を引きながら、暗い面持ちで廃村になった場所まで戻って来ていた。

 そこで馬から降りると、往きに休んだ廃屋へと集まった。


「…さて、もう一回聞くが、良いんだな?」


 リオリーヌを案内した騎士だった。その青年が、昨夜焚火を囲みながらした密談の通り動くぞと確認をする。そして返事を待たぬまま、廃屋の一つに隠していた荷物を取り出しに向かった。

 そこには、自分が用意した四つのくたびれた鞄が有った。中身は数日分の食料と着替え、野営できる一式が入っている。用意したのはそれだけの筈だったのに、何故か使い古された馬具一式も四つ揃えられていて、自分がいかに慌てていたかを思い知らされた。

 ここまでの協力を仰いだ相手に頭が上がらなくなるなと、思わず苦笑する。


「…一応、バレ難いように俺が用意した物だ。中身を確かめてくれ」


 そう言いつつ鞄と馬具を三人に渡すと、その場で素早く騎士服を脱いで、鞄に詰めてあった旅装に着替えた。そうしながら窺うように、固まったままの三人を見た。


「……どうした?」

「……何だよケール、手回し良すぎだろーが」


 森の中まで付き合った騎士キャロが、最初に復活した。強張りを解くようにひらひらと手を振ると、同じように騎士服を脱ぎ始めた。


「あー…まあ…そうなんだよなあ……まあー、ここまで来ちまったら、良いも悪いも無いけどなー」


 と言いながら、一度空を仰ぎ、誰も居ない周囲を窺い、馬を気遣うのはラデュという名の騎士だ。

 

「そうだな。帰ったら確実に拷問コースだろうしな…よっしゃ、とっとと始めるぜ」


 ポタムは話しながらもてきぱきと着替え、廃屋から人の頭ほどの大きさのツボを出してきて馬車の傍らへ並べている。

 その動きに迷いは無く、ケールはやっとここまで来たかとほっとした笑みを浮かべた。


「じゃあ、手筈通りに行こう」

「おう」

「俺、馬具の方付け替える」

「あー、武器を出すかー」


 護送馬車に隠して、自分たちの使う武器類を運んで来ていた。それをラデュが取り出していく。


「ケールー、騎士団の剣じゃ魔獣に太刀打ち出来ないから、自分たちの武器を内緒で運ぼうぜってしれっと言うのー、俺、そのままの意味で聞いてたんだぞー」

「あー。まあ実際、魔獣に襲われていたら、それ使ってただろうし……」

「まあ、そりゃそうなんだけどよ。……確かになー、支給された剣を持ったまま逃げらんねえし、丸腰ってのは有り得んしなー」


 ケールの返事に少しぶすくれた感じで返したラデュが、武器を下ろした空間にランタンの油をしみこませた布を押し込んだ。


「…そっか、三日間休み取ったのこのためか。悪い事しちまったな。言ってくれたら良かったのによ」


 用意された荷物や馬具を確認しながら、キャロが今気付いたというように声を上げた。


 すまん、うまく言えなかったんだよ、と、ケールはちらりと空を仰いだ。


「いや、その、色々急だったしさ。この間にお前らには、急いでギルドへお金預けて貰わなきゃならなくなったんで…」

「は、それこそいきなり急がされて驚いたぜ。けど…確かに外での買い物に困らんし、取られる事もないから安全って言われたら、納得するしかなかったからなあ…」


 ツボを積み込み、脱いだ騎士服や鎧を馬車に運びつつ、ポタムが笑った。


「で、本当はこの為だったか」

「まあね。部屋で保管して置いたら、奴らの思うままだと思ったからなー」

「ケールのいう事をー、素直に聞いておいてー良かったじゃーん?」

「わははは。その通りだな」


 馬具を付け終えた三頭の馬を、出来るだけ森から離れた場所に繋ぎながら、大きくキャロが笑った。


「皆、無理言ってごめんな。あんまりにも急な命令だったから、俺も凄い焦ってたし、自分の考えに迷ってた部分もあった…から」

「ああ、気にすんな。昨夜のお前の説明は良く解ったし、納得できるもんだったしな。俺もなあ、何となく変だとは思う事あったんだよな」

「俺もー、ケールの説明には納得してるからー。変な仕事ばっか回されてさー。いつ辞めようかとずっと思ってたしー」


 自前の剣を装備しつつ、ラデュが具合を確かめつつぼやく。


「あんな仕事ばかりでは、バカにされているのも分かってたしな。それまでにも納得できない事は確かに多すぎた…。俺は頭が良い訳では無いけど、今回の命令と命令書の事を説明されて、ぞっとしたからな。……それにここまで用意して貰ってもいる。ケールの計画には喜んで乗るさ」

「…そう言ってもらえると、助かる」


 ポタムの言葉に、ケールは小さく頭を下げていた。

 命令が発動するその日。確信が持てるまでは、外に漏れる懸念もあって、どうしても真実を伝えられなかったのだ。



 そして、同時進行の計画は、決して言えない。



 上手く行ってくれとケールが祈る中、昨夜の焚火跡を綺麗にどけて、そこにキャロとポタムが、深い穴を掘り始めた。

 此処までは、全て昨夜話した予定通りに事が進んでいる。

 ケールも革鎧を着こみ、愛用の剣を腰に下げると、キャロが繋いでくれた三頭の馬に、皆の荷物を括り付けた。

 残りの一頭は仕込んだ馬車を引かせた後、自分が乗る予定だ。


「穴、掘れたぜ」

「助かる。装備を終えたら最後の仕込みに行くぞ」

「おう」

「急ごう」


 四人とも、どこにでもある旅用の衣類と革鎧を着こむと、隠し持ってきた愛用する武器を装備した。


「ああ。良い重さだ。久しぶりの感覚だな」

「全くさ。こんな鈍ら渡しやがって、生きて行けるはずねえだろうがよ」


 騎士剣を投げつけるように馬車に投げ込んだのはキャロだ。

 使い古されて刃を立てることも出来なくなった剣や、ひびが入っているような防具、壊れかけの装備しか回されないのが、六班なのであった。


「よし、行くか。あ、ランタン点してくれ」

「お、そうだったなー」


 ラデュにそう頼みつつ、ケールは脱ぎ捨てた四人分の騎士服と剣、運び出されていたツボを確認して扉を閉めた。


「なあ、大丈夫なんだろうな?」


 キャロの心配は、これから向かう森の中の事だ。その不安な声に、ケールは手を振って応えた。


「ああ。先日ばらまいた薬はまだ効いてる」


 くん、と森に向けて鼻を利かせ、ケールはそれを確かめた。

 子供の頃、ここで生活していくために必要な薬の匂いだった。簡単には忘れられない匂いだった。


「……行くぞ」


 薬の効き目と安全を自ら証明するように、ケールは馬の手綱を取って、しっかりと森へ歩み始めた。

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