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別に聞きたくはない話

「……」


「……」


 はい、無言が続きます。さっさと席を立ちたいのだが、無駄にポテトが喉に絡む。

 コーラも飲み干してしまい、口の中パッサパサだ。そんで、赤井もこっちをチラチラ見てくる。

 止めてくれ、この距離感のわからない空間、地獄すぎる。そんで、お前は意を決したように、目をつむるな。調子が良くなったようで何よりだよ。


「昔――」


「あっ、言わなくていいわ」


 絶対ろくでもない話だ。


「なんでだよっ! ここは理由を聞くところだろうが!?」


「十分だよっ。どうせちょい重いエピソードなんだろ、そんなん聞きたかないよ」


「はっ! こうなったら、意地でも言ってやるよ。昔、初恋の人がいたんだよ。中学の教育実習のひとだった……」


「あぁ、うん」


 うわぁ、語り始めたよ。……自業自得だがすごく逃げたい。


「まぁ、初恋っていうか中学の頃って大人の女性に憧れるだろ? 別にどうこうって話じゃないんだ。ただちょっといいなぁって思っていたら、なんか呼び出されてさ。荷物を、こう、倉庫に一緒に運ぶように頼まれたんだ」


「おおう、いいじゃん」


「だろ? テンション上がって、普通に話して倉庫に行ったさ、そんで……襲われた」


 ガタッ。


「立つなよっ。ここまで聞いて途中で帰んなっ!」


「いや、生々しいのはちょっと……」


 クソッ、手を掴まれた。タッパもあるし、力が強いなコイツ。

 こちとらまだ、女性に希望を持っていたい高校生なのです。


「バカッ。未遂だよ、命からがら逃げ伸びた……今でも、夢に見るぜ」


「それで女子が苦手になったと、それがなんで女子と遊ぶようになってんだ?」


「それがなぁ。俺も襲われてすぐは女子は苦手だと言って回って、女子達から距離を置いたんだよ。そうしたらどうなったと思う」


 飲み干したコーラを握りつぶすもんだから、氷が飛び散る。こっちにも飛ぶからやめろ。


「そりゃあ……苦手だって言ってんだから、女子とは離れられたんじゃね?」


「さらに女子が寄ってきた。しかも、表では理解している顔でさ、裏ではこっそり連絡をくれってな抜け駆けレースが開催されたんだよ」


「うわぁ……」


 紙コップを置いて、両手で顔を覆う赤井からは、ネガティブなオーラが溢れているようだ。

 距離を置こうとしたその硬派な雰囲気でさらに女子が集まって、さらに牽制し合って、ドロドロの女の争いが始まったと……。


「わかるか? 毎日、背後に視線を感じて、ちょっと疲れてため息を吐いたら『大丈夫? 力になるよ』とか複数人に言われんだぜ。お前いつからいたんだよって話だろ!? もはやホラーなんだよっ」


「あぁ、うん。大変だな」


 正直、どう声を掛けたらいいかわからない。多感な中学の時期にそんな目にあったら間違いなく歪む自信があるわ。というか、どんだけモテんだこの男。わけのわからんフェロモンでも出てんのかな?


「いっそ無視して、運動に集中しようとバスケを頑張ってたら、大会とかの関係で他校からも女子が集まって……男子更衣室の中で待ち伏せされた時は、悲鳴を上げちまったよ」


「ゴメン、俺が悪かった。迂闊に変なことを聞いた。じゃあこれで」


 ガシッ、また掴まれる。チッ、なまじ運動能力が高いのが厄介だな。


「話は終わってねぇぞ。そんでますます女子が苦手になったんだよ。そうしているうちに、相手にしないよりも、相手をしたほうがやりやすいことに気づいたんだ」


「どういうこと?」


「だからさ、なまじ拒否するから、相手はあの手この手で来るわけだ。強引なこともされる。だったら、ちゃんと窓口を作って、道筋をこっちから作って置くんだよ。そうすれば、相手も無茶はしないだろ? 複数人を相手にすれば、無茶するやつも減って上手いこと誤魔化せた。俺は家のこともあるし、女性恐怖症だなんて家族にも言えなくて……ハハ、笑えよ」


「アッハハハッハハハ、グエッ」

 

 笑ってやったら、締め上げられた。理不尽。


「何が可笑しい」


「そっちが笑えって言ったんだろうが。調子が悪くなるほどに苦手なのに、よくやるよ」


「話すだけなら問題ないし、あしらい方も慣れてる。ただ今日は久しぶりに、積極的な女子がいて、隙を見ては体を密着させてきたり、触れてきたり、何回もそういうのがあると流石にキツかったんだ。一度調子を崩すとなかなか立て直せなくて、後は知っての通りだ」


「聞くだけなら羨ましい話ではあるけど、当事者の立場にはなりたくないな。北聖の女子にこだわった理由は?」


「一応将来の為に、人間関係は広げてんだよ。どうせなら、寄ってくるなら相手は選ばないとな。最近は他校の女子の出待ちも酷いから、知り合い経由ならちゃんと会えるって情報を流して、調整したかったんだよ」


 それで直接寄ってくる女子が減っても、結局は相手にする女子が増えるから意味が無くない? とか思ったが、口に出す必要もないだろう。多分、本人も自覚しているだろうし。

 一通り話してスッキリしたのか、赤井の顔色は大分よくなっていた。この辺が話の切りどころだろう。 


「一応理由はわかった。他言しない。じゃあな」


「そんなタイプだと思ったぜ。まっ、俺って人を見る目無いけどな。この前も散々な目にあったし。そうだ、連絡先交換しようぜ。今度礼するからさ」


「いや、遠慮しとくよ。下手に女子達に狙われたくないからな」


「気にすんな。ダミーのスマフォ何台かあるから、連絡先が漏れた時の対策はしてある」


「……苦労してんだな」


 結局押し切られて連絡先を交換した。この辺のコミュ力の高さが人気の秘訣なのだろう。

 といっても、王子との関わりなんてもうないだろうが……いや日葵のことがあったか。女性恐怖症の赤井の元なら変なことにはならないだろうし、ちょっと安心した。

 ともかく、よけいなお節介をしてしまったようだ。とっとと帰って漫画を読もう。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[一言] 赤よ……お前に必要なのは同性の友人だよ。 趣味の話とか共有できる奴らとスクラム組んでれば 女子との縁なんて入り込む余地ないぞ。 無かったんぢゃお……(吐血
[良い点] やめたげて、そんなの乙女げーのヒロインみたいな彼女ちゃんに赤いのが興味持たないわけ無いやん。 もう、ワクテカにしかならないやんか! [一言] てか、赤井はイックンが攻略してはどうだろうか。…
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