最終話:夏は続く。
「イックンっ! 着いたよ」
ワンピースにショートパンツと言った夏らしい恰好で、ポニテ―ルを揺らしながら日葵がこちらを振り向く。暑い中で坂道を登ったせいで二人共汗だくだ。
「はぁ、本当に階段の多い街だったな」
「それが良いのでっす。ほら、風が気持ちいいよ」
龍造寺グループの騒動は、会長である日葵の祖父の盛大な引退パーティーということで広まっていった。ネットニュースとかにもなってはいるが、その中に日葵の結婚騒動なんてものはない。
新会長になった幹久が上手いことをやっているのだろう。あの夜の後、知恵熱を出してダウンした日葵を看病し、今日が旅行の最終日となる。せっかくなので、この街の日葵の好きな場所を回ろうと言うことだ。
「いや~。この街に来たらこの風を味合わないとね。イックン」
「確かに、気持ちいいな」
街を見下ろす公園のさらに奥の階段を上がった場所。灯台の跡地だそうだ。
海って青いんだなぁとか当たり前の感想が思い浮かぶ。というかさっきから日葵の言うことに同調しかしていない。
「どしたのイックン。なんか変でっす」
はい、めっちゃ緊張しています。あの夜。日葵と……その……キスしてから、ちゃんと話すは初めてだ。どうしたって意識してしまう。日葵の方はいつも通りというか、気持ち距離感が近い気はするがどうにも俺の方が熱が抜けていないようだ。
いや、まて、何だかんだ日葵だって色々意識していたことが今回の旅行でわかったし、今回も俺がきづいていないだけでは? ここはちょっと仕掛けてみるか。
「ま、まぁ、二人でいると色々思い出すしな」
「ん~? あっ、イックン照れてるの? そっか、そっかヒヨちゃんのアダルトな魅力にメロメロですか~」
効果なし、頬に手を当てて正面から惚気られてしまった。傍から見たら俺達相当なバカっぷるだぞ。
照れくさいのでチョップ。緊張なんて霧散して、いつもの俺達が戻って来る。
だけど、全部が同じじゃない。少しずつ進んでは戻って、季節の様に巡って変わっていくものだ。
「痛くなーい。よっし、じゃあ反対側を回って今度はお茶屋さんでわらび餅でも食べに行こうよ」
「冷やし飴も追加だな」
階段に差し掛かり、二歩ほど降りるが横に日葵がいない。
「日葵?」
振り向くと、高い位置にいる日葵と目線があう。そのまま微かに唇が触れる。
そのまま日葵が横を通り抜け、柑橘系の香りが鼻に抜けた。こちらを振り向くその笑みは夏の太陽よりも眩しくて……。
「エヘヘ、しょっぱいね」
「……甘いんだよ」
直視何てできるはずもない。
…………っと、ここで話を終わらせればよかったのだろうけど……。
「旨いな、この……なんだ? これ? 親父に持って帰るか」
「わらび餅だ。僕も久しぶりに食べたな。どうした樹、卜部。二人共、食べないのか?」
茶店でわざわざベンチを移動させて座る、二人の男子。猫科の獣を想起させる野性的な高身長のイケメンと、線の細い怜悧な印象を与える美男子。ちなみに錬はシャツにジーパンだが、玲次もポロシャツを着ていてカジュアルな印象だ。学園の王子こと赤井 錬と青柳 玲次が普通に茶店で前に座って来た。
「なんで二人がここにいるんだよ?」
「こんにちはー。二人共、仲良しだね。いいことでっす」
わーい。と手を挙げて挨拶をする日葵。数日前に振った男二人相手にいっさい物怖じしないのは流石の天然である。
「よっ、卜部。いや、ここはあえて、ひ、日葵とか呼んでもいいか?」
「ダメでっす」
「ガーン。やっぱだめか、でも一緒に座るくらいはいいだろ? この黒いの旨いんだぜ。食べてみろよ」
「黒蜜だ。お前、和菓子は本当に知らないんだな。それより卜部、ちょっと見てもらいたい資料があるんだが」
錬が黒蜜、玲次がファイルを差し出してくるので、その手を掴んで睨みつける。
「おい、彼氏の前で日葵になにやってんだ」
「なんだよ樹。お前もこれ食べるか。交換しようぜ」
「ちょうどいい。樹、適当な会社を買いとる計画がある。一枚嚙んでもらうぞ」
「なんでだよっ! おかしいだろこんなの。……いや、まぁ、二人が元気そうでいいけどさ」
ため息をついて二人を見るが、良い表情で元気そうにしている。特に玲次は憑き物が落ちたようだ。
鋭い目つきは相変わらずだがどこか険が取れたような、柔らかさがある。錬はあいかわらずのように見えて、前よりも自由度が上がってるな。なんか、ちょっと雰囲気が違うぞ。
「当然だろ。俺はお前の親友だしな。遊びの予定も調整してないじゃんか」
「縁が無いとは言わせないぞ、まぁ、友達というものを作るのもいい機会だ。今後の処世術の練習相手に付き合え」
ニカッと笑いかけてくる錬と拗ねたように睨みつけてくる玲次。
そして、二人をキョロキョロと見る日葵。
「……あれ? もしかしてヒヨちゃん大ピンチっ!? ダメだよっ。イックンは私のだからねっ!」
「話をややこしくするなっ!」
腕を取られて、涙目で思いっきり抱きしめられる。そんな俺達の様子を二人の王子は楽し気に眺めていた。
「俺の夏は終わらねぇ! つーことで、今後も卜部に対してもガンガンアタックしてくんで、見事跳ね返してくれ親友っ!」
「まぁ、そういうのもいいかもな。末永く、相手してもらうぞ。お二人さん」
「わぁ、七難八苦だよイックン」
「ハハ、勘弁してくれ」
まだまだ、夏は終わりそうにない、日葵と見つめ合って笑いあったのだった。
これにて本編終了となります。ありがとうございましたぁああああああああああああああ。
語りたいことがたくさんあります。まだまだ、書きたいこともありますが、ここで一度区切りをつけ付けさせていだだきます。
ここからお礼とか色々↓
皆さんからの感想が楽しくて、勝手に一緒に作品を作っていく気持ちで読んだり返答しました。
この作品は元々、二人の出会いの物語を書く予定だったのですが、イチャイチャ少ないという事実に気付いたため、じゃあイチャイチャし始めた所から書くぜっ! という感じで恋人としての二人を書くために告白後の物語になっています。
『今日の一冊』で紹介され、なろうラジオでは声優さんに、主人公のことを心配されたりと影が薄いイックンも作者の想像を超えてくるヒヨちゃんも書き始めた時よりもずっと好きなキャラクターになりました。これもひとえに読んでくれた読者様のおかげです。重ねてお礼を言わせてください。この物語が形として完結できたのは、間違いなく皆様のおかげです。
もちろん、卜部一家の短編とか文化祭とか他にも書きたいことはありますが、一旦これで終わりとなりました。
そして、最後にお願いがあります。もし、ここまで読んでまだブックマークと評価をしていない方がいらっしゃったら、★一つでもよいのでつけて欲しいです。完成した作品を少しでも多くの人に読んでもらいたいと、恥ずかしながら思ってしまうのです。何卒よろしくお願いします。
それでは、路地裏の茶屋でした。




