天然少女のお節介な王子様
二人が出て行ったチャペルは静かで、俺と日葵の息遣いすら聞こえそうだった。
心臓が波打つ。自分の鼓動が日葵に聞こえていないかを心配する。深呼吸を一つ、玲次と錬を見ていた場所から一歩前に出る。
「よく頑張ったな」
日葵は変わらない優しい笑みを浮かべている。だけど、その唇は震えていて、すぐに表情が崩れ始めた。うつむいて彼女は泣き始める。
「うん……うん…」
手の甲で涙をぬぐうも日葵の瞳から流れる涙は止まらない。
呆れるほどに優しい彼女が、結果的とは言え二人を傷つけた。真剣な想いだったからこそ、告白は重く、受け取る方も必死なのだ。それが、相手の望まない結果ならばなおさらで、だから伝えた辛さに日葵は泣いている。
ただ、見ていただけの俺は申し訳なくて、なんと声をかけていいかわからない。
ただ、そのままにできなくて。
「イックン……」
「……」
日葵を抱きしめた。この距離じゃないとなんかダメだと思ったから。
「日葵、好きだ」
「うん、知ってる。知ってるよ、私のイックン」
「ずっと一緒にいたい、こうしてずっと一緒に。だから……」
ジャケットの襟をつかまれて引き寄せられる。
「ンっ」
「!?」
続きの言葉を紡ごうとした俺の口が日葵の唇で塞がれる。
そのまま日葵はこっちを見上げた。
「もうイックンは私に想いを伝えてくれたよ。だから今度はこっちの番でっす」
涙を湛えたその瞳と上気した頬、目の前には日葵しか見えない。
「私は、イックンが私をどれだけ好きか知ってるよ。でも、イックンは私がどれだけあなたを好きかわかってないの。どれだけ、どれだけ、好きか。大好きなのか。あなたと出会えたことが私にとってどれだけ大事なことだったのか。私は色んな人を傷つけるかもしれないから、ずっと怖くて、諦めていたのに、イックンが私を連れ出してくれたから」
日葵が俺の後ろ髪を掴んで強く自分に押し付ける。日葵の鼓動が強く響く。
「叔父さんや他の男の人がいたって、イックンがどこかに行ったって、私があなたを離さない。だから、イックンも私を抱きしめて……離さないで」
俺の知っている日葵はいつもポワポワしていて、なんか周囲とずれてて、見ていて危なっかしくて……そう思っていた。でもまだ俺の知らない日葵がそこにいた。
数秒無言で見つめあい、息継ぎをした。想いを伝えた日葵の緊張が和らいでいく。
「そっか、日葵は俺を大好きだったのか」
「そだよ。ヒヨちゃんのトップシークレットなのです」
抱き合ったまま、いつものように話し合う。例えそれがどれほど些細なことでも、相手を信じていても離れるのが怖い。俺が二人の王子を怖がっていたように、日葵も怖かったなんて、想像もしなかった。
「わりとバレてんぞ」
「うん、知ってた。やっぱり、イックンは私の王子様だね」
そのまま額を当てながら二人で笑い。
もう一度、キスをした。
更新遅れてすみません。次回で本編最終話になります。




