青い王子の告白
葉香さんが場を繋げ、お爺さんにマイクを繋ぎ会は進行していく。
「ここはもう大丈夫だから、行きなさい」
葉香さんがそっと囁いてくれる。日葵、錬、玲次を連れて舞台を降りた。
「場所を変えて話をしよう」
「そだね。場所はイックンが担当だけど、良い場所あったの?」
「……まぁな」
提案すると、いつになく大人びた表情で日葵が賛成する。
「いいのか樹? 会場の人間の前でないと茶番の終わりにならないだろう」
玲次が生真面目にそう言うが、幹久さんが仕組んだ筋書きに沿うことも無いだろう。
「もう見世物になるのはごめんだ。俺も日葵も会場の人達の反応なんて興味ないよ。あくまで当事者達で決着をつけたい」
「賛成だぜ。俺達のケジメだ、他の奴らなんて関係ないもんな」
錬も賛成のようだ。しかし、会場のことを考えるとちょっと言い出しづらいな。
「あー、ごめん。時間が無くて……人がいない場所はあそこしかなかった」
顔を見合わせて訝しむ二人の王子を連れて目的の階へ行く。
会場から二つほど下の階の大きな扉を開ける。すでに照明は点いているようだ。
「まぁ、ここなんだけど……」
「おお! 綺麗でっす!」
「樹、お前……」
錬が頭を押さえる。その場所はホテル内にあるチャペル……ありていに言えば結婚式場だった。
「フン、いいじゃないか。じゃあ卜部、前へ進んでくれるか」
「うん」
玲次が促し、日葵が静かに前にでて振り返った。正面に三人の男子が立っている。
俺の横に並ぶのが二大王子様なんてほんと、どうしてこうなったのか。
「僕から言わせて欲しい」
異論はなかった。この騒動で彼が背負っていた物は降ろされた。恐らく人生で数少ない、青柳 玲次が自分に素直になれる瞬間は今しかないのだから。
「卜部、僕は……君がわからなかった」
「うん」
日葵は戸惑うことなく、玲次の言葉を受け止めた。瞳をしっかりと向けて一言も漏らさず大事に想いを受け取めていた。
「最初に会った時から君は僕の理解を越えていた。それが怖くて、納得がしたくて、君が『龍造寺』の血筋だと知った時、僕はこう思った。『あぁ、やっぱり血には勝てないのか』と、生まれついての天然で上位に立つ君は、養殖で偽りの血しかない僕では勝てないのは当たり前だと、そうやって無理やりに納得をした。それが悔しくて、勝手に君に嫉妬した」
「うん」
それは、きっと誰にも明かせなかった玲次の心の奥の部分。自分でも触りたくない、一番痛い部分。
それでも玲次は言葉を止めない。日葵も揺るがない。
「嫉妬して、君のことを考えて……そのたびに自分の情けなさが身に染みた。だから僕は、僕を信じることができなくて、僕の持っているものに縋った。家柄とか、金とか、自分とは直接関係ないものを盾にした。そうすることでしか、向かい合うことができなかったんだ。作業をするその横顔が、屈託なくわらう笑顔が。卜部、君が本当に魅力的だったから。その結果が、見世物の三文役者だ。僕はもう自分に『価値』を見出せなくなった。自分に向かい合うことが怖くて、できなくなった。そうしたら……」
そこまで喋って玲次は俺の方を見た。その表情は、憎たらしいほど自信に満ちた、学園の王子様の表情だった。
「後ろのお節介と腐れ縁の友達が僕の背負っていたものを全部消し飛ばした。僕は生まれて初めて自分と向き合わざるを得なくなった。だから、今感じるこれが僕の本心だ。僕を越えていく君をずっとそばで見ていたい。僕は『青柳』でない僕自身として君に向かい合える。手を……取ってくれないか?」
言い切った。頭を下げることも無く、まっすぐに対等に玲次は手を前に出した。
日葵は真剣な玲次を見つめる。一瞬、怖かった。それほどに玲次はかっこよかった。
「ありがとう青柳君。実は驚いているんだよ。青柳君は私が苦手なのかと思ってた。今の告白、とっても素敵でっす。貴方は無価値なんかじゃないよ。誰だって、自分と向き合うのはとっても怖いことなんだよ。だから、かっこいいよ青柳君。血筋に悩む貴方も今までの努力だって無くなったわけじゃない。背負っていたものはきっと今度は貴方を支えてくれる。そんな貴方に告白をされて私は光栄でっす! だから、ちゃんと言うね……ごめんなさい」
手を取らず、日葵は頭を下げた。玲次が手を引き、日葵が頭を上げる。
「私は青柳君を異性として、一番大事な人として傍にいることはできません」
「……あぁ、理由は結構だ。どうせすぐにわかる。それに十分だ、十分なんだ。君に『かっこいい』と言われたなら。僕はもう、大丈夫だ。ありがとう卜部」
玲次は日葵に笑いかけてこちらに振り返った。その表情は……俺は生涯絶対に忘れないだろう。
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